【韓国では大衆果実の代表、日本では高級品】韓国と日本のモモ経営指標・労働生産性の特徴、韓国のモモ消費動向5選を大紹介【それでも韓国では好まれる理由は?】

韓国の市場で売られているモモの写真です 果樹과수
韓国の青果店で販売されているモモの写真(2019.08撮影)

モモは、日本・韓国ともに、7月を代表する果実です。

ところが、日本のモモは高級な果物と思われている半面、韓国では大衆的な果物と思われています。

この理由を知るためには、以下の2つを把握しておくとよいです。

  • 韓国と日本のモモがどのような生産動向や経営的な特性を持っているか
  • 韓国でモモはどのような果物と考えられているか

そこで、このページでは、韓国と日本の最新統計をもとに、両国の単位面積当たりモモの収量・単価・経営費・所得・労働時間の概況を整理してみました。

また、韓国でモモが大衆的な果物となっている背景として、「モモが祭祀床(チェササン、제사상)に上がらない理由」と、「韓医学で健康果実とされている理由」の2つについても整理します。

韓国のモモ栽培や消費の現状を知りたい方は特におすすめです。

  1. 韓国のモモは日本に比べると主に単価が低いため粗収益が少ない
  2. 以上のことから韓国のモモ栽培は、日本より所得が低い
  3. 韓国では、モモの栽培面積が日本の2倍、生産量も1.8倍程度あるため、韓国人は日本人の4倍程度モモを多く食べていることになる
  4. 韓国のモモが高級果物にならない理由は、韓国人の民間信仰とも密接に関係しており、モモを亡くなった先祖を呼ぶ祭祀床に置いてはならないという風習とも関係している
  5. 韓医学でのモモは、果実の消費量が多い夏~秋に体が冷えるのを防ぐ役割のほか、血液循環・利尿作用・整腸作用・体の酸性化抑制など様々な効果を期待されている

日韓両国のモモ経営指標の比較

韓国と日本のモモ栽培における収量・単価・粗収益

日韓両国のモモ単収、単価、粗収益を比較した表です
  • モモの収量は日本が韓国より1.2倍程度高いです。
  • 単価は、日本が韓国より1.5倍程度高いです。両国とも単価は上昇傾向ですが、日本の方が上昇率が高めです。
  • 粗収益は、日本が韓国の1.7倍程度高いです。

韓国と日本のモモ栽培における経営費と所得

日韓両国のモモ経営費および所得を比較した表です
  • モモ栽培にかかる経営費は、日本が韓国の2.5倍程度と高いです。
  • モモ栽培から得られる所得は、2019年は日韓がほぼ同額でしたが、2020年以降は日本が韓国より5万円/10a程度多くなっています。

韓国と日本のモモ栽培における単位面積当たり労働時間

韓国のモモ労働時間の推移を示すグラフです
日本のモモの労働時間の推移を示すグラフです
  • モモ栽培にかかる労働時間は、日本が韓国の1.7倍程度と多いです。
  • なお、雇用労力が占める割合は両国とも15%程度と大差はありません。

韓国と日本のモモ栽培における自家労働1時間当たり所得

韓国と日本のモモ栽培における自家労働1時間当たり所得の推移を示したグラフです
  • 2020年は日韓の自家労働1時間当たり所得が1050円程度とほぼ同じでした。これは、この年は、韓国が不作年だったのが大きいと考えられます。
  • それ以外の年は、韓国が日本の1.5倍程度と高いです。

韓国と日本のモモ栽培における労働1時間当たり収穫量比較

韓国と日本のモモ栽培における労働1時間当たり収穫量を比較したグラフです
  • 労働1時間当たり収穫量を比較すると、2019~2021年の3年間を通じて、韓国が日本の1.5倍程度で推移しています。

韓国と日本のモモ経営指標の考察とまとめ

韓国の場合、モモの単価が安めに固定されているのが、経営構造を決定づけていると言えます。

その背景として見過ごせないのが、モモの栽培面積です。

2020年を例にとると、日本のモモ栽培面積は1万haに満たない状況ですが、韓国では2万haを超えています。また、生産量も韓国が日本の1.8倍程度あります。

日韓の人口比を考えると、韓国人は日本人の4倍程度モモを多く食べている計算になります(下リンク参照)。

【韓国の6大果実とは?】日韓両国の果実生産状況を整理して分かったこと5選【日本の品種ばかり?】
韓国の「6大果実」について説明。日韓両国の栽培面積・生産量・単位面積当たり収量の最新の実績を整理しました。 また、日本由来の品種が韓国にどれくらい導入されているかも整理しました。

以上のように、モモについては、韓国の方が単価安になっているので、できるだけ経営費や労働時間をかけずに栽培する方法で「薄利多売」を狙っていると考えられます。

逆に言うと、日本のモモは「高級」というイメージを消費者に植え付けるのに成功しているのに対し、韓国ではそれができていないということになります。

韓国でモモはどのような果物と考えられているか

モモが祭祀床(チェササン、제사상)に上がらない理由

祭祀床とは

ご存じのとおり、韓国では祖先を非常に大切にする風習が色濃く残っています

祖先を大切にしていることを象徴する儀式が、祭祀(チェサ、제사)であり、韓国では以下のように定義されています(下リンク)。

제사(祭祀)
한국민족문화대백과사전
神霊に飲食をささげ、祈願したり亡くなった人を追悼する儀式を指す用語。(中略)
家庭で奉行してきた祭祀は以下のとおり。
  1. 祠堂で行う祭祀:宗家は、家内に祠堂を設置している。祠堂には、高祖父母以下4代の神位を奉安しているが、その月最初の日(朔)・陰暦十五日(望)に焼香し、忌日には祭祀をささげる。家内に重要なことが生じた場合は必ず告由をし、見慣れない飲食物が生じた際はまず捧げるが、季節の新味ができたときも同様に捧げる。
  2. 四時祭(사시제、サシジェ):季節ごとに行う祭祀であり、中月(2・5・8・11月)に祠堂で行う。
  3. 始祖祭(시조제、シジョチェ):始祖を継ぐ宗家の跡継ぎが祭主となり、冬至に執り行う。
  4. 先祖祭(선조제、ソンジョチェ):初祖以下高祖以上を立春に執り行う。立春は「生物之始」、すなわち万物の芽が萌え始める日であるため、これを象徴して先祖を祭る。
  5. 禰祭(이제、イジェ):父の祠堂で陰暦9月(季秋)に執り行う祭祀である。季秋は「成物之始」、すなわち万物を穫り入れる頃であり、これを象徴し先祖の中では近い父の祭祀を執り行う。
  6. 墓祭(묘제、ミョチェ):祖先が眠る山所(산소、サンソ)で執り行う。忌祭を受けていない祖先に差し上げる焼香である。
  7. 忌祭(기제、キジェ):亡くなった日、すなわち忌日に執り行う。四代奉祀とも言い、4代を通じて該当する神位だけに祭祀を差し上げる。

以上のような頻度で行う家庭は今日では激減していますが、それでも父母・祖父母の命日や旧盆や旧正月には祭祀を行うのが一般的です。

祭祀床におけるモモの位置づけ

제사상 차리는 법 > 제례상식 > 장사관련정보 > 고객센터 >
홍성추모공원

上のリンクでお分かりのとおり、祭祀床では、飲食をご先祖様に捧げるのが必須です。

そして、位牌とは反対側(人が礼拝する側)には、果物やお菓子が供えられます。

この時、「棗栗柿梨」と言い、左からナツメ、クリ、カキ、(リンゴ)、ナシの順で供えることになっています。

そう、モモは入っていないのです。モモは中国原産で、韓国にも千年以上前から導入されているのにもかかわらずです。

[종교와 음식] (34) 제사상에 안 올리는 ‘장수의 상징’
유교적 관례에 따르면 제사나 차례상에 반드시 올려야 한다거나 올려서는 안되는 것으로 규정된 과일은 없다. 그런데 복숭아(사진)는 대체로 제사상이나 차례상에 올리지 않는 경우가...

上のリンクでは、その理由として、以下のように説明しています。

(前略)モモは、祭祀床や茶礼床には上げないことが多い。これは、中国に由来する道教的な風習のためである。道教は他の宗教と異なり、(韓国)国内で制度的に発展する代わり、巫俗信仰など伝統民俗信仰に溶け込んだ。
道教でのモモは、不死・長寿の象徴であった。このため、亡くなった先祖を呼ぶ祭祀床に置いていることは、祖先神に来るなということに他ならない。モモの力(ちから)が怖い祖先神としては、飲食物や酒が整えられている祭祀床に近づくことすらできない。(中略)
民間信仰でも、悪鬼や災難を追い出すのに使用した。巫堂(무당、ムーダン)が厄払いの儀式などをして何かを下ろそうとするときに使用するのがモモの枝である。映画やドラマで霊が乗り移った人をモモの枝で叩きながら悪鬼を追い出す場面がしばしば出てくる。(後略)

以上からお分かりのように、韓国ではモモが祭祀では供えられないことが分かります。

祭祀に供えることができない果物は、お客さんが法事などの際に土産として準備することもできないということになります。

以上のことから、韓国でモモは大衆から非常に愛されていながら、高級果物にならない理由は、単に生産量だけでなく、韓国人の民間信仰とも密接に関係していると言えます。

韓医学で健康果実とされている理由

韓医学における温性・中性・冷性で果実を分類した

韓国の伝統医学は、韓医学と呼ばれています。日本の漢方とだいたい同じですが、生活の中に根差している度合いが日本よりはるかに強いのが特徴です。

韓医学では、あらゆる食べ物を、以下の観点からも分類しています。

  • 温性:体を温める食物
  • 冷性:体を冷やす食物
  • 平性:体を温めも冷やしもしない食物

いくら健康に良いからと言って、温性ばかり、冷性ばかりを食べていると、体内のバランスが乱れてしまい、病気の原因になると信じられているのです。

主要な野菜や果実の性質は、下リンクにある「野菜を食べてこそ体が生きる(야채를 먹어야 내몸이 산다)」という本に記されています。このうち、主要な果物の性質をまとめると以下のとおりです。

https://www.yes24.com/Product/Goods/105074400
  • 温性:モモ、カンキツ(皮)
  • 冷性:カキ、カンキツ(果実)、バナナ、ナシ、スイカ、リンゴ、マクワウリ、キウイ
  • 平性:ウメ、スモモ、ブドウ

以上のように、韓医学では果物の多くは食べると体を冷やすとされています。

しかし、食用果実のなかで、モモだけは食べると体を温める性質があるとされています

すなわち、モモは、果実の消費量が多い夏~秋に体が冷えるのを防ぐ役割が期待されているのです。

現代韓国においてモモが健康食品として推奨されている理由

[정이안의 건강노트] 부교감 활성을 위한 7월 제철 음식, 복숭아와 감자
는 부교감신경을 활성화하기 위해 먹으면 좋은 제철 음식을 한 달에 한 차례씩 소개하고 있습니다. 이번 칼럼 주제는 ‘7월에 꼭 먹어야 하는 제철 음식’으로 복숭아와 감자에 대한 이야기입니다.복숭아 지금 많이 드세요복...

もちろん、現代科学においても、モモの健康機能性は証明されています。上のリンクを張った記事によると、以下のように整理できます。

  • 食物繊維が豊富で、消化や整腸作用に優れる。
  • アルカリ性食品であるため、食べると夏に汗をかいて酸性化した体を改善してくれる。
  • 血液循環や利尿作用をする働きがある。
  • 必須アミノ酸、ビタミン、ペクチン等がバランスよく含まれており、疲労解消効果がある。

モモが、韓国では夏を代表する果物である理由は、単に体を温める性質だけでなく、血液循環・利尿作用・整腸作用・体の酸性化抑制など様々な効果があるとされているからです。 

参考資料

タイトルとURLをコピーしました