小型の無人ヘリ・ドローンは、以前から水稲の防除には用いられてきました。
しかし、ここ2年くらいで、防除だけでなく、播種・除草剤散布などにもドローンを用いる試みが増えてきました。
ここでは、2020年にはすでに試験を終了していた韓国の事例と、昨年~本年の日本の事例を比較することで、ドローンを使った水稲栽培(特に播種)について、現状や展望を解説します。
ドローンを水稲の直播栽培に導入しようかと考えている方は、必見の内容です。
- ドローンによる水稲直播は、日韓の先行事例ともに、種もみ重量3Kg/10aを基本に、鉄コーティング処理を行っている
- 一方、播種量の調節や除草剤の使用時期など、両先行事例間で細かな部分はかなり相違がある
- 2023年現在、韓国におけるドローン水稲直播は普及段階に差し掛かっており、例えば忠清南道では2025年までに水稲全面積の10%を占める1万5千haをドローン直播にする計画である
- 日本でもドローン水稲直播の実証は各地で行われているが、報道や現地のスタンスなどを見る限り、韓国より普及速度が遅い
- ドローン水稲直播栽培の技術的課題は、ほ場条件に応じて使用できる専用の除草剤開発である
韓国で開発された水稲ドローン直播栽培(動画と翻訳)
動画「稲作もドローン時代!ドローン水稲直播栽培を失敗せずにする方法(벼🌾농사도 드론시대! 드론 벼 직파재배 실패없이 하는 방법)」
動画とコメント欄の翻訳
みなさま お会いできてうれしいです。
2021年を新しく迎えるに際し、ドローンを利用した水稲の直播栽培技術を紹介いたします。
2020年には、これまで開発してきた技術を土台に、ドローンを利用した直播技術マニュアルを出しました。また、開発した技術やマニュアルを公開し、国内の2か所で稲の直播栽培を実証しました。
成功と失敗は、すべてがことを成し遂げるためのジャンプ台であります。
これより、昨年の成功と反省点を補完し、2021年度のドローン直播栽培技術を紹介します。
播種前の留意点
まず、播種前に必ず守らねばならない事項を紹介します。
第一に、直播栽培は、栽培適地のみで行うようにしてください。
雑草化した稲に汚染された地域や、鳥害が懸念される地域は、ドローンによる直播栽培をしないようにしてください。
第二に、播種時期を必ず遵守するようにしてください。
(平均気温15℃以上の)安全な立毛を発生させるために、5月25日以降に播種するようにするとともに、地域別の安全出穂期を考慮しなければなりません。
第三に、播種は均一にしなければなりません。
10a当たり3kgの種もみを均一に播種してください。
したがって、播種性能が検証されたドローンを利用し、作業者自らが予行練習を十分にした後に播種せねばなりません。
理想的な立毛数は、1㎡当たり100~150本です。
作業順序
次は、作業順序を紹介します。
播種10日前に水田に水を入れます。
播種5日前にロータリー整地作業をします。
播種当日、水深3cmになるよう整地や均平化する作業をします。
泥と水がきれいに混じった状態である、均平作業直後に播種するのが好ましいです。
播種3日目に排水路を設置し、完全に水を抜いてください。
稲の苗を生やすため、7日間、乾燥させてください。
排水後に水田が乾きすぎた場合、水を臨時的に入れてあげるのがよいです。
播種10日後、苗の半分位に水が浸かっているように十分に湛水すれば、直播栽培が完成します。
雑草防除のため、湛水1~2日後に、中期除草剤処理を施します。
抑草効果を保つには、最低でも5日は水田に水が5cm以上はなければなりません。
雑草防止のため、播種後35~45日の間に必ず中干し作業を行ってください。
苔とヒエの被害防止技術
最後に、昨年問題になった苔とヒエの被害を防止する技術を紹介します。
堆肥は秋に使用した後、耕耘して分散させなければなりません。
播種前に使用すると、コケやカエルが発生し、籾の発芽を妨げます。
また、除草剤の散布と同時期に、イネミズゾウムシ等の低温性害虫防除のため、選択型殺虫剤を散布してやらねばなりません。
ヒエの発生が懸念される場合、播種5日前のロータリー作業直後に直播専用初期除草剤の処理をお願いします。
以上で、ドローンを利用した水稲直播栽培技術の紹介を終わります。
詳細な内容は、農村振興庁で発刊された「2021年 ドローンを利用した水稲直播栽培技術」を参考にされるか、各市郡農業技術センターにお問い合わせ願います。
これからも、ドローン直播栽培技術を持続的に研究し、わが国のコメ産業発展を切り開いていくつもりです。
ご視聴ありがとうございました。
動画サイト内での視聴者とのやり取り翻訳
鳥害と有機栽培への適応について
- 質問:①いつも気になるのですが、水稲直播をするとき(種もみを)鳥が食べないのですか? ②種もみに農薬による消毒をしない農家でも可能な方法はありますか? ③また、有機栽培の場合に除草剤の代わりになる方法もご案内をお願いします。
- 回答:こんにちわ、農村振興庁です。お答えが遅くなりましたが、ご質問のお答えをします。①についてですが、結論から申し上げますと、鳥の被害はありえます。よって、直播に適した地域はハト・スズメなどの被害が少ない水田になります。また、鉄コーティングをするか、ロータリー直後に播種することで水田土壌内での発芽を促す方法を使えば鳥の被害を減らせます。②ドローン直播は種子消毒を推奨しています。種もみの消毒時には、低温性害虫や多様な病害が発生しうるからです。③有機栽培の除草法は、米ぬかやスクミリンゴガイなど多様な方法がありますが、最近は主にスクミリンゴガイ農法が活用されています。ノンサロ(www.nongsaro.go.kr)をご訪問いただければ様々な情報を得ることができます。
播種時の水深について
- 質問:種もみを散布するとき、水田の水深はどの程度にすべきでしょうか?
- 回答:播種時には、水深3cmがよいです。動画2:06から関連する内容が出ています^^。
日本で開発されたドローン水稲直播技術の紹介動画と補足
動画「ドローン直播きのコツ全て見せます。ブランド米こしひかりのドローン田植えに成功!」
管理人の補足
上の動画はアップロード時期が2021年9月末なので、恐らくは21年4月に撮った映像だと思われます。
ということは、韓国での技術開発とほぼ同時並行で、上の動画のようなドローン水稲直播が日本でも試行されてきたということになります。
日本と韓国のドローン水稲直播の先行事例の比較
以上の2つの事例を比べると、大きくは共通していますが、細かな部分が違うことが分かります。
以下、整理しておきます。
共通点
- 播種量は、両事例とも種もみ重量は3kg/10aを基本としていること
- 種もみへの処理は、両事例とも鉄コーティングを行った後に播種していること
相違点
- 播種量:韓国の場合は種もみ重量は3kg/10aを守るよう求めているが、日本の場合は2kgでもよいと話していること
- 除草剤の施用時期:韓国の場合は播種12日ころを目安に(中期)除草剤散布が基本で、ヒエの発生が多いほ場は播種5日前に専用の初期除草剤を散布する。一方、日本では、播種直後に(種類は不明だが)除草剤を散布する点が異なる
考察
基本となる種もみ重量の設定や鉄コーティング処理などは、恐らくはドローンの性能に起因している部分も大きいと考えます(タンク容量が10リットルなど)。
一方、播種量の微調整や除草剤施用時期などは、日本と韓国の自然条件の差異による部分が大きいと思われます。
さらに言うと、日本も韓国も地域によって雑草の発生状況、水稲の発芽率、さらには倒伏しやすい品種や土地条件かなどすべて違っているので、細かな部分はその地域で確立しなければならないと考えられます。
ドローン水稲直播栽培の現状(2023年時点)
韓国の2023年時点の導入状況
韓国では、今年の田植え時期に合わせ、ドローン水稲直播栽培の試験が各市・郡で行われています。
報道で確認できるだけでも、昌原市、青陽郡、軍威郡、世宗特別自治市、霊光郡、三捗市、醴泉郡など全国各地で行われています。
また、道単位で見ると、例えば昨年までの試験事例が多い忠清南道が「150億ウォンを投じ2025年までに直播栽培面積を全栽培面積の10%(1万3000ha)に拡大する計画」であるとのことです(下リンク)。
これらの報道から考えると、2025年には韓国水稲作付面積の5~10%はドローン直播に代わっている可能性が高いと考えられます。
日本の2023年時点の導入状況
日本でも、各地で実証試験が行われています。
ただ、2023年6月時点で播種に使用した事例の報道を見ると、茨木圏で若干進んでいる以外は、安曇野市、東郷町、水戸市、中津市など一部地域に限られているようです。
さらに、2022年(昨年)の話ですが「種もみのまき方やコーティング方法を変え、作業効率や生育状況などを確認。数年後に導入の可否を決める」という地域もあるようです(↓下リンク)。
確かに、水稲は1年1作なので、その1作が失敗した時のリスクは非常に大きいです。
それを前提にしながらも、リスクを受け入れて性急に決める韓国と、慎重に導入する日本という違いが見えているのは興味深いです。
ドローン水稲直播の課題
何と言っても、ドローン水稲直播栽培に向く除草剤の開発と普及が重要だと思います。
現状でも、ドローン散布に向く様々な除草剤が開発されています(↓下リンク)。
しかし、これらの多くが移植水稲向けの剤であるなど、まだ改善が必要です。
ドローンでの直播栽培専用の除草剤開発が早急に望まれます。
また、雑草の基幹除草のほかに、実際の雑草の発生状況に応じて補正除草ができる薬剤の開発も求められます。