【韓国の農業技術が分かる】2022年 韓国農村振興庁 農業技術大賞 5選【その4:国民とともにつくるわがコメ、わが品種で食糧主権確保】

稲が生育中の韓国の田 技術一般기술일반
韓国の水田(2017.08、星州郡)

韓国でも、毎年数多くの農業に関する試験研究が実施され、成果が公表されています。

その中で、韓国の農業関係の試験研究を総括する政府組織である「農村振興庁」が、毎年「農業技術大賞」を選定していることは、日本人はもちろん、韓国人もあまり知らないようです。

韓国農村振興庁は、大賞について、「農業科学技術の開発および拡散を通じて農業者の所得増大、国民の生活条件向上等に寄与した研究者」に対して授与するとしています。

このページでは、2022年に選定された5点の農業科学技術表彰大賞の中から、「国民とともにつくるわが米、わが品種で食糧主権確保」について、その概要を翻訳してみました(※記述が重複している箇所は管理人で適宜省略しています)。

大賞を受けた技術の内容や背景を把握することで、韓国政府が力点を置きたい農業政策もうかがえます。

国民とともにつくるわが米、わが品種で食糧主権確保

研究者(交配)、農業者(選抜)、消費者(決定)、地域住民(品種の命名)が参画し、国産米・国産品種の開発および事業化に成功
日本の稲(「秋晴」、「コシヒカリ」)を100%『国民米』の「ヘドゥル해들」、「アルチャンミ알찬미」に代替し、種子主権の確保および国産米のブランド価値を極大化

食味のブラインドテスト評価で、「コシヒカリ」が29%、「秋晴」が2%に対し、「ヘドゥル해들」が48%、「アルチャンミ알찬미」が45%

(受賞)国家研究開発100選(21年)、大韓民国品種賞(21年)、今年のブランド大賞(19年)、政府革新最優秀賞(19年)

成果の内容

農業科学的効果

  • 国民とともに「ヘドゥル해들」、「アルチャンミ알찬미」、「ヘマルグン해맑은」、「ナドゥルミ나들미」を開発(SPPプロジェクト)
  • 精密育種技術のワンステップ導入により需要者すべてが満足する品種の迅速開発
  • 花粉培養(期間2年短縮)、分子育種(病害抵抗性マーカー)、品種判別(遺伝体基盤 Indel マーカー)
  • 国民の要望解決:消費者(食味)、農業者(栽培安全性)、共同出荷施設等の流通従事者(完全米率)→要求を同時に充足

技術的効果(需要者とともに現場中心で研究することで迅速な農家への普及拡大)

王様印利川米임금님표이천쌀』(日本稲)を国民がつくる最高品質米「ヘドゥル해들」、「アルチャンミ알찬미」に100%代替

  • 受賞実績:原料米の国産化を通じて今年のブランド大賞受賞(19年、利川市)
  • 技術成熟度:品種開発研究から事業化段階まで成功!技術成熟度レベル9)

社会・経済的価値(育種パラダイムの転換により需要者満足度の増進および所得増大)

供給者(政府・研究者)中心から需要者(農業者、流通業界等)参画型体制に転換

波及効果(代表ブランド米原料の国産化により、はたらき場所創出および農家所得の増大)

  • (経済面)品種代替(京畿道、忠清北道)により1632億ウォン増大(農家573億、共同出荷施設1059億ウォン)※算出根拠:農家(ha1693千ウォンが3700ha分+ha3272千ウォンが15600ha分)、共同出荷施設(ha3809千ウォンが3700ha分+5913千ウォンが15600ha分)
  • (社会面)需要者とともに原料の国産化により国民コミュニケーションおよび統合に寄与:生産誘発効果(453億ウォン)、就業誘発効果(851名)、「ヘドゥル」・「アルチャンミ」の品種価値(18.4億ウォン)(19年、21年 実用化財団)
  • (技術面)精密育種技術のワンステップ導入により稲の品種開発パラダイムを転換

補足

わが国でも水稲の品種改良は各地で行われており、現在流通している水稲(うるち米)だけでも318品種あるとされています(農林水産省)。

韓国においても水稲育種は古くから取り組まれており、日本統治時代の1933年には初の交配育成品種ナムソン13号が誕生したとされ、1970年には栽培面積の60%を育成品種が占めるようになりました。

一方、韓国は1980年頃までコメ不足に悩んでおり、収量が多い「統一稲통일벼」が国策で普及して以来、稲の品種はどちらかというと質より量に重きを置いていたようです。

以上のような韓国稲育種史は理解していたのですが、近年まで日本の品種である「秋晴」や「コシヒカリ」が栽培されているのは今回初めて知りました

今回の研究は、過去の日本の水稲育種が特に食味面で優れていることを示すと同時に、韓国でも食味重視の育種を多くの国民との連携のもと進めているのがよく分かる例だと言えます。

参考資料

2022農業科学技術表彰大賞

令和5年度産農産物の産地品種銘柄設定等の状況(農林水産省)

わが国水稲品種改良の歴史(韓国語ブログ)

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