【韓国の農業技術が分かる】2022年 韓国農村振興庁 農業技術大賞 5選【その5:機能性サンチュの新品種が睡眠健康製品に変身、グローバル化の足場確保】

睡眠導入効果があるラクチュシンを従来品種の124倍含む品種「フカラン」の栽培現場、生産者インタビュー

韓国でも、毎年数多くの農業に関する試験研究が実施され、成果が公表されています。

その中で、韓国の農業関係の試験研究を総括する政府組織である「農村振興庁」が、毎年「農業技術大賞」を選定していることは、日本人はもちろん、韓国人もあまり知らないようです。

韓国農村振興庁は、大賞について、「農業科学技術の開発および拡散を通じて農業者の所得増大、国民の生活条件向上等に寄与した研究者」に対して授与するとしています。

このページでは、2022年に選定された5点の農業科学技術表彰大賞の中から、「機能性サンチュの新品種が睡眠健康製品に変身、グローバル化の足場確保」について、その概要を翻訳してみました(※記述が重複している箇所は管理人で適宜省略しています)。

大賞を受けた技術の内容や背景を把握することで、韓国政府が力点を置きたい農業政策もうかがえます。

機能性サンチュの新品種が睡眠健康製品に変身、グローバル化の足場確保

表彰区分:農業・個人

表彰者と所属:張ソウ(園芸研究所)

成果の要約

  • (在来種改良による品種開発)「フカラン<黒夏郎>흑하랑ラクチュシン124倍増)」、「チョンハラン<青夏郎>청하랑(免疫増強成分増)」、「チョンハラン2청하랑2(サラダ)」 
  • (通商実施)6件、実施料20百万ウォン(22年までの累積)
  • (種子普及)82ha(原種含む)、売上額68.5百万ウォン
  • (現場実証)7か所、(新品種モデル)栽培技術(20年)、生産団地造成(22年)、
  • (政策)「フカラン흑하랑」に特化した団地の造成(22年)
  • (ブランド支援)商標4種、技術移転18件、技術料10百万ウォン、「フカラン흑하랑」共同生産者連合会(22年)
  • (制度改善)サンチュの食用部位に「幹」追加
  • (技術支援)原料標準化栽培技術、消費者テスト6件
  • (事業化)機能性野菜2件、食品11件、個別認定型4件/輸出4件(加工製品2種)
  • (波及効果)栽培規模(30ha, 300トン)、所得創出(農家10億ウォン、産業体42億ウォン)、生産誘発1000億ウォン(個別認定型、輸出)
  • 成果数(7年で576件):品種3、営農技術1、政策3、特許4、通商実施6(19.5百万ウォン)、技術移転16(6.8百万ウォン)
    コンサルティング103件、対外協力12、事業化17、論文2(SCI1、非SCI1)、生物資源3、広報507点    ※投入予算:10年で4.76億ウォン

成果の内容

研究の背景

  1. 不眠症患者は、睡眠剤の副作用がない天然の購買意思が上昇
  2. 名古屋議定書発効により、その土地固有の植物資源確保の重要性への認識が拡大しているが、健康機能性食品原料の大部分を輸入に依存
  3. 睡眠関連市場は年5%上昇する勢い(世界137兆ウォン、国内3兆ウォン)、原料市場の拡張・基盤の造成に関する研究が本格化(20年)することで産業化の推進が必要

内容(固有種由来の新品種「フカラン흑하랑」サンチュの加工産業化基盤構築、19~21年)

  • 固有種を改良したサンチュ品種「フカラン흑하랑」の開発および専門特化団地造成
  • (固有種収集)268種(47作物)、作物別の機能性差別化(サンチューラクチュシン)
2011年名古屋議定書発効に対応した戦略
  • 品種開発:資源分譲(11年、農業遺伝資源センター)→品種出願(16年)→登録(19年)
  • 現地実証:葉サンチュ→加工製品開発→ 搾汁ジュース商品化・拡大適応
  • 契約栽培:1.2トン、6百万ウォン 、通商実施6件(うち再実施2)実施料19.5百万ウォン
  • 種子普及:82ha(原種含む)、68.5百万ウォン(10,000ウォン/4g)
  • モデル事業:新品種栽培0.2ha(20年、4か所)、団地造成6.5ha(22年、育苗2か所、生産11か所)
  • 政策事業:特化団地造成6ha(22年、11か所)、原料加工施設構築(23年予定) ※共同生産者連合会が構成
  • 加工産業化:民間協力によりサンチュ品種「フカラン흑하랑」の『天然睡眠剤ラクトシン成分』の産業的活用に成功
  • フードテイク適用:家庭用植物栽培機(ウェルスファーム웰스팜後援)用熟眠菜パッケージ 
  • 技術拡張:食品成分表改訂(食用茎の追加)、原料標準化、効果分析、消費者テスト
  • 成功事例:生産者ー産業体が連携した技術開発、ブランド投入・コンサルティングによる新所得創出51億ウォン ※業務協約7件、技術支援14件
  • 事業化:15件(22年までの累積)、技術料6.8百万ウォン ※ナビファーム(百歳食品백세식품、エレファン엘리펀)、グッダディ굳대디、ヘンボキラン행복이랑など製品化16種

世界最初の機能性野菜品種利用「天然睡眠製品サンチュ原料化」産業的拡張に成功!!
★品種・特許の通商実施(累積):21件(22年現在) ☞ 技術料(26.3百万ウォン)、栽培面積30ha、生産額51億ウォン(原材料+製品)

波及効果(「天然睡眠品種開発、製品化技術開発および広報」により「国民睡眠健康実現新品種」に認定)

  • 科学的効果:源泉素材品種開発によるグローバル競争力の強化:通商実施6件、技術移転15件 ※原料ロイヤリティ節減
  • 経済的効果:生産性向上5兆4千億ウォン、付加価値の誘発2兆3千億ウォン、※睡眠産業育成実態調査および政策方案
  • 社会的効果:天然睡眠成分の植物性素材開発により国民の睡眠健康増進 ※睡眠障害による経済的損失額11兆ウォン

補足

サンチュ(レタスの野生種)とラクチュシン

レタス(特に下葉の葉柄や茎)を切ると、白い乳状の液体が染み出てきます。この液体の中には、ポリフェノールやラクチュシンが多く含まれています。

ただし、一般的な玉レタスのラクチュシン含量は多くありません。

にもかかわらず、ヨーロッパにおいて「レタスは自然の睡眠薬。レタスを食べれば眠くなる」と言われてきたのは、理由があります。

それは、植物としてのレタス本来の姿は、リーフレタスやサンチュの方であり、玉レタスの方は品種改良によって葉が巻くようになったからです

いわば、野生に近い方がレタス本来の特性をそのまま残しているということになります。

さらに言うと、リーフレタスは茎がほとんど発達しません。よって、日本では、リーフレタスは適当な大きさになると株ごと収穫し、1株を1袋に入れて販売します。

これに対し、サンチュは茎が大きく育ちます。よって、韓国では、サンチュの葉1枚1枚をかぎ取り、例えば10枚を1袋に入れて販売します。

なので、収穫が終了する直前のサンチュは、茎がかなり残ることになり、この茎に多量のラクチュシンが含まれているのです。

睡眠導入効果がある韓国在来の植物

韓国でも睡眠障害に悩まされる人は多いようです。なので、サンチュの他にも、睡眠導入効果のある植物が知られています。

それが、和名エゾキケマン(学名Corydalis speciosa Maxim.、韓国では俗にメラチョ멜라초という)です。

キケマン属植物はケシ科に属するので、いくら睡眠導入作用や鎮痛作用があると言っても、日常生活で常用するようなものではありませんし、また栽培自体も不可能と思われます。

よって、本研究のように、人体への影響が少なそうであり、プルコギなどを包んで食べるのに欠かせないサンチュ「フカラン흑하랑」が注目されて研究され、産業化に成功したと思われます。

薬機法の関係もあり機能性ばかりを強調できないですが、それでも「フカラン흑하랑」はわが国でも販売すべき品種であると思います。

参考資料

2022農業科学技術表彰大賞

レタスのもつ様々な効果と睡眠作用の噂

レタスは天然の睡眠薬!

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