韓国の野菜といえば、ハクサイ、ニンニク、トウガラシなどを連想する人が多いと思います。
しかし、韓国の野菜では、ハクサイ(배추)に次いで生産量が多いのは、意外にもタマネギ(양파)でで年間110~150万トンに達しています(下リンク)。
しかし、韓国のタマネギがどのような経営指標であるのかは、日本ではほとんど知られていません。
そこで、このページでは、韓国と日本の近年の統計をもとに、両国タマネギの収量・単価・経営費・所得・労働時間の概況を整理してみました。
併せて、農家1戸当たり栽培面積や、生産量の推移を整理することで、日韓のタマネギ生産・流通の概要が分かるようにしました。
- 韓国のタマネギ栽培は、農家当たりの栽培面積が日本と比較して8分の1程度と少なく、零細
- 韓国のタマネギは、主に単価が低いため、所得が恒常的に低く、労働生産性も日本に比べて低い
- 韓国のタマネギ生産量は、110万~160万トンに達しており、日本とほぼ同レベル。ただし、日本よりも生産量のブレが大きく、流通を不安定にさせる要因になっている
- 1人当たり消費量が日本より大きいのにもかかわらず、韓国はタマネギを不作年に輸入している。このことがただでさえ低い単価をますます低くさせている
- 韓国では計算上農家15戸に1戸はタマネギを栽培していることになり、多数の小規模農家の存在が流通をさらに不安定にさせている
日韓両国タマネギの経営指標の比較(農家当たり面積・収量・単価・粗収益)
農家当たりタマネギ栽培面積の比較
- 日本では調査対象(29~30戸)の栽培面積が400a近くに達しているのに対し、韓国では50a程度と少ないです。
タマネギ収量の比較
- 収量は韓国が7100kg程度と、日本の1.2倍程度多いです。
タマネギ単価の比較
- 韓国のタマネギ価格は38円/kgと、一定かつ低い水準で推移しています。
- これに対し、日本では60~82円/kgと価格変動は激しいものの韓国の2倍程度を維持しています。
タマネギ粗収益の比較
- 2019年は両国間では大きな差異はありませんが、2020年以降は日本が韓国の1.3~1.5倍の粗収益を得ています。
日韓両国タマネギの経営指標の比較(経営費・所得)
タマネギ経営費の比較
- 10a当たり経営費は、韓国では25万円程度、日本では33万円程度です。
- 韓国の21年の経営費が20年以前より低いのは、減収に伴う出荷経費減少によるものです。
タマネギ所得の比較
- 韓国の10a当たり所得は、2万5千円程度であり、年次間の差異は少ないです。
- 半面、日本の場合、3万4千円~8万円と変動幅が大きいです。
日韓両国タマネギの労働生産性の比較
韓国のタマネギ10a当たり労働時間
- 10a当たり労働時間は95~100時間程度かかっています。
- 雇用に関する統計は少ないが、農家平均面積を考えると、自家労働に依存する割合が非常に高いと思われます。
日本のタマネギ10a当たり労働時間
- 10a当たり労働時間は60時間程度と、韓国の60%程度しかかかっていません。
- 雇用労力も全労働時間の20%近くを占めています。
日韓タマネギ栽培における自家労働1時間当たり所得比較
- 韓国は、労働1時間当たりの所得が250円程度と、非常に低いです。
- 半面、日本は、2020年および2021年は1時間当たり600円台と高くはありませんが、2019年は1時間1500円程度と他の品目と遜色がない水準です。
日韓タマネギ栽培における労働1時間当たり収穫量比較
- 韓国の労働1時間当たり収穫量は、68~78kg/hrとなっており、労働時間が長い分労働1時間当たり収穫量が日本より15%程度少なくなっています。
- また、韓国の不作年である2021年は、日本との差が大きくなっています。
日韓の経営指標の差異を考察
以上、日韓タマネギ栽培の経営指標を比較したところ、以下のような特徴が見いだせます。
- 韓国のタマネギ栽培は、農家当たりの栽培面積が日本の8分の1程度と少なく、零細
- 韓国のタマネギは、主に単価が低いため、日本より所得が恒常的に低い
- また、労働生産性も日本と比べると低い
以下、零細で恒常的に単価が安く、労働生産性も低い韓国のタマネギの経営指標を裏付ける背景を、他のデータを元に考察していきます。
日韓両国タマネギの生産量の比較
冒頭で述べたように、韓国はタマネギの生産量がハクサイに次いで多く、2013年以降は110万~160万トンに達しています。この数値は、日本のタマネギ生産量と肩を並べる水準です。
また、韓国の場合、日本より年ごとの生産量のブレが大きいことがお分かりいただけるかと思います。
両国の人口比(韓国:日本≒1:2.5)を考えると、国民1人当たりに直した生産量は、韓国では22~31kg/年となります。
日本で同様の数値を算出すると、8.5~10.8kgなので、韓国の野菜におけるタマネギの位置づけがいかに重要であるかが分かります。
もっとも、日本の場合、国内生産とは別に年間30万トン程度を外国から輸入しています(下リンク)。この分を合わせると、日本の国民1人当たりタマネギ消費量は、年12~13kgになると思われます。
韓国でしばしば行われる緊急輸入措置その問題点
ここまで読まれた方の中には、「韓国はタマネギ生産量がすごく多いので、国内で自給ができているだろう」と思われた方も多いと思います。
ところが、韓国では、タマネギに限らず、国産農産物の作況が悪い場合、「韓国農水産品流通公社(aT)」という準政府機関が、外国から輸入をしています。
そして、(経営指標を分析した期間からは外れますが)今年の1~4月の輸入量だけでも3万5千トンに達しており、前年対比10倍を超える水準で輸入をしています(下リンク)。
韓国のスポット的なタマネギ輸入に問題があるとすれば、日本のように恒常的に輸入しているのとは異なり、ほぼ自給できる年と10万トン程度輸入しなければならない年とがあり、それが市場のタマネギ価格をよりかく乱させているということになります。
低迷する韓国タマネギ生産の解決策は?
例えば、同じ露地野菜でも、キャベツやホウレンソウなどは、韓国の方が日本よりも労働生産性が高いことが示されています(下リンク)。
なのに、タマネギは、日本と比べても非常に労働生産性が低い状況です。
私見ですが、韓国の場合、タマネギ栽培の参入障壁が日本よりも低いことが考えられます。
農家1戸当たり栽培面積や総面積をもとに単純に計算すると、概数ですが日韓のタマネギ生産農家数は以下のようになります。
- 韓国:全国栽培面積1万8000ha÷1戸当たり栽培面積50a≒全国農家数3万6千戸
- 日本:全国栽培面積2万5000ha÷1戸当たり栽培面積400a≒全国農家数6250戸
日本の農家数が約100万経営体、韓国が同50万経営体であることを考えると(下リンク)、韓国では15戸に1戸はタマネギを栽培しているという計算になります。
これでは、省力化を実現させるための機械導入が進まないばかりか、栽培技術が至らない農家が全体の作況を大きく左右し、結果として流通の不安定化を招きやすいと言えます。
以上の解決策はただ一つ、タマネギの作況が悪いか不安定な生産者には、タマネギ栽培をやめていただき、その人に合った作物を栽培することに尽きるのではないかと考えれます。
参考資料
- 韓国統計庁「農畜産物生産費調査(농축산물생산비조사)」:タマネギ生産農家の経営概況、タマネギ生産費、タマネギ主要投入物量、タマネギ所得分析のうち2019、2020、2021年を抽出:2023.07.05閲覧
- 農林水産省「農業経営統計調査>営農類型別経営統計」:令和元年、令和2年、令和3年
- 韓国農村振興庁国立園芸特作科学院「園芸特作産業生産額(원예특작산업 생산액)」:2023.07.05閲覧
- 2021.07.20付・慶北日報「[インフォグラフィック]2021年タマネギ・ニンニク・大麦生産量推移([인포그래픽] 2021년 양파·마늘·보리 생산량 추이)」:2023.07.05閲覧
- 農林水産省「作況調査(野菜)」:2023.07.05閲覧
- 農畜産業振興機構「海外情報2020年11月 中国産野菜の生産と消費および輸出の動向 (第2回:たまねぎ)」:2023.07.05閲覧