【韓国の農業技術が分かる】2022年 韓国農村振興庁 農業技術大賞 5選【その2:小麦自給率向上のための機能性小麦の開発および加工利用基盤構築】

韓国の小麦畑 技術一般기술일반
韓国の小麦畑(2013.11、天安市)

韓国でも、毎年数多くの農業に関する試験研究が実施され、成果が公表されています。

その中で、韓国の農業関係の試験研究を総括する政府組織である「農村振興庁」が、毎年「農業技術大賞」を選定していることは、日本人はもちろん、韓国人もあまり知らないようです。

韓国農村振興庁は、大賞について、「農業科学技術の開発および拡散を通じて農業者の所得増大、国民の生活条件向上等に寄与した研究者」に対して授与すると定めています。

このページでは、2022年に選定された5点の農業科学技術表彰大賞の中から、「小麦自給率向上のための機能性小麦の開発および加工利用基盤の構築」について、その概要を翻訳してみました(※記述が重複している箇所は管理人で省略しています)。

大賞を受けた技術の内容や背景を把握することで、韓国政府が力点を置きたい農業政策もうかがえます。

農村振興庁制作動画「輸入小麦はどけ~国産小麦三銃士が浮かぶ(수입밀 비켜~ 우리밀 3총사가 떴다!)」

小麦自給率向上のための機能性小麦の開発および加工利用基盤構築

表彰区分:農業・協業

表彰者と所属:金キョンフン、権ミラ(食糧科学院・小麦研究チーム)

成果の要約

[優秀性]多様な用途の小麦品種を開発

  • 全粒用などの品種出願(3)、機能性小麦品種出願(3)
  • 技術移転(25件、30.8百万ウォン) /事業化実績(7件、77.5百万ウォン)/品種普及166件/優良系統育成673系統

[研究協力]小麦の効能究明および加工技術開発

  • 特許:効能の出願(1)、加工技術登録(4)、商標出願(2)
  • 抗酸化・抗肥満効能の究明全粒粉パンの加工技術迅速品質分析法など論文(SCI5件、非SCI20件)

[懸案解決]種子の普及により既存品種71%を代替および品質検定技術普及により品質等級制の施行

  • 波及効果:小麦新品種の開発と効能の究明により品質競争力向上、政策連携により生産・消費拡大の推進

主要成果の件数

  • 品種出願/普及:3/166件、特許出願/登録:5/20件、技術移転:25件、論文掲載SCI/非SCI:5/20本、政策提案:11件、営農活用:9件、受賞・内部/外部:9/4件、投入額:30.1億ウォン
  • 19年:国務総理優秀公務員、19年:科学技術部長官賞有功、20年:優秀課題最優秀賞

成果の内容

研究の背景および必要性

  • 国産小麦の自給率は1%と極めて脆弱であり、食糧安全保障のための政策推進基盤による研究開発強化が切実
  • 小麦自給率の向上目標:2020年0.8% → 2025年5.0% → 2027年7.9%

研究結果

基礎(品種開発)→
  • 機能性用途別小麦新品種の開発:高たんぱく(13.0%以上)機能成分(ポリフェノール等)含有→競争力強化
  • 製パン用(백강ペクガン(白強)、황금알ファングマル(黄金玉)等3品種)、製麺用(새금강セグムガン(新錦江)、호중ホジュン等6品種)、製菓用(조아ジョア):占有率97.5%
  • 機能性:全粒粉パン用(아리흑,アリフク、아리진흑アリジンフク)、全粒飯用(아리흑찰アリフクチャル)等5品種:占有率2.0% ※外来種0.5%
応用(加工技術連携)→
  • 国産小麦の機能性や効用究明および加工技術開発→差別化された消費市場の産業化の基盤構築
  • 機能性小麦の「ふすま」における抗酸化・抗肥満の効能解明(22年、共同特許出願)
  • 加工適性向上のための酵素処理等の技術開発:全粒粉パン等(2020~21年、論文&特許出願) ※釜山大学校との共同研究
開発(品種&品質技術の現場適用)→
  • 優良新品種の種子普及および品質検定技術NIR)開発普及→高品質小麦の生産向上
  • 用途別品質普及⇒国内占有率99.5%確保、既存品種を71%代替 ※새금강セグムガン:19年10.4→21年33.3
政策連携

品質分析機の普及により現場検定が可能に⇒政府備蓄小麦の品質等級制施行に向けた基盤の準備(23年、農産物品質管理院)

社会経済的効果

小麦産業育成法の政策と研究開発の現場支援により国産小麦の栽培面積が増加中
※団地造成(研究開発支援+政策):20年(27か所、2.8千ha)→ 21年(39か所、5千ha)→21年(51か所、7千ha)

補足

日本でも小麦の自給率は15%(2020年現在)と高くありませんが、韓国ではそれ以下の1%以下であるのは今回の調査で初めて知りました。大量に輸入される外国産小麦に量では太刀打ちできないので、健康機能性に着目した育種が行われてきたものと思われます。

そんな中、2022年は、ロシアによるウクライナ侵攻などで小麦価格が国際的に大幅に上昇した年でもあり、国内の小麦産業を早期に育成したい韓国政府の意図がはっきり感じられる受賞です。

さて、もともと小麦は、以下の気象条件を2つとも満たさねば収量が著しく低くなります。

  • 冬に凍害や寒害が発生しにくいこと(枯死による生育不良が少ない)
  • 出穂~収穫までの5~6月上旬に雨が少ないこと(湿害による粒肥大不良や穂発芽が少ない)

韓国の気象は、我が国に比べて冬場が寒いうえ、春にも雨が降りやすい地方が多いようです。

韓国小麦の自給率の低さは、政策的背景のほか、気象的にも適地ではないのと関係が深いと思います。

そう考えると、今回の研究で育成された品種の収量性がどのくらい高いのかも、管理人としては非常に興味があるところです。

参考資料

2022年農業科学技術表彰大賞

農林水産省「平成26年版農業白書」第4節 主要農畜産物の生産等の動向(2)小麦

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