韓国でも、毎年数多くの農業に関する試験研究が実施され、成果が公表されています。
その中で、韓国の農業関係の試験研究を総括する政府組織である「農村振興庁」が、毎年「農業技術大賞」を選定していることは、日本人はもちろん、韓国人もあまり知らないようです。
韓国農村振興庁は、大賞について、「農業科学技術の開発および拡散を通じて農業者の所得増大、国民の生活条件向上等に寄与した研究者」に対して授与するとしています。
このページでは、2022年に選定された5点の農業科学技術表彰大賞の中から、「異常気象によるミツバチ被害対応に向けた花粉媒介用スマート巣箱の開発および普及」について、その概要を翻訳してみました(※記述が重複している箇所は管理人で適宜省略しています)。
大賞を受けた技術の内容や背景を把握することで、韓国政府が力点を置きたい農業政策もうかがえます。
異常気象によるミツバチ被害対応に向けた花粉媒介用スマート巣箱の開発および普及
表彰区分:産業・個人
表彰者と所属:李キョンヨン(養蜂生態科)
成果の要約
(開発)花粉媒介ミツバチに適合した管理および利用技術(イチゴ等7種)→(応用)花粉媒介用スマート巣箱2種→(普及)新技術モデル事業(2件、78か所、21億ウォン)/現場技術支援:99回/技術移転(1183万ウォン)
- (ミツバチ)蜂群寿命が1.6倍に延長、ハチの活動が2.3倍に向上
- (農作物)キウイの生産性増大20%、人工受粉費用の減少(91%)
- (波及効果)果樹花粉媒介用ミツバチによる技術のベネフィット:291億ウォン、スマート巣箱の生産誘発効果12億ウォン
- 農林畜産科学技術大賞(20年、農林部)、災害安全優秀研究(21年、行政安全部)、感謝牌(22年、花粉媒介協議会)、特許出願8、営農技術15、論文(SCI1、非SCI11)/投入8.3億ウォン
成果の内容
背景
- 異常気象によるミツバチの越冬時へい死等、世界的な花粉媒介者(Pollinator)の減少に対応した農作物の安定的な生産のためのミツバチ花粉媒介技術の開発研究が必要(16年、IPBES)
- ー国内の越冬ミツバチ喪失被害の発生:養蜂農家17.6%、36万蜂群(22年、農林部)
技術開発(ミツバチ被害に対応した作物の安定的な向上のためのスマート巣箱開発)
- (基盤研究)農作物の安定的な生産のための花粉媒介ミツバチに適合した管理および利用技術ー主要農作物に適合した花粉媒介ミツバチ利用技術の標準化:7種(イチゴ、スイカ、キウイ等)ー効果(キウイ)生産性:1752→2102kg/10a (20%向上)、受粉費用:95→8万ウォン/10a (91%減少)
- (応用開発)適合型ミツバチ管理技術を基盤とした花粉媒介用スマート巣箱の開発(2種)ー猛暑・寒波等の異常気象から巣箱の内部環境を管理・制御し、ハチの寿命や作物生産性を向上ー(効果)低温環境におけるミツバチ群の寿命延長:3.5→5.7か月(1.6倍に向上)、高温環境におけるマルハナバチ(Bombus pascuorum)の活動性向上:31→71匹/日(2.3倍に向上)、商品果率:イチゴ6%、トマト46%増大
- (技術拡散)開発された技術の産業化および新技術普及事業により農家への技術拡散ー(新技術モデル事業)花粉媒介専用ミツバチの普及(19年、20か所、10億ウォン)→スマート養蜂花粉媒介専用巣箱の普及(21~22年、58か所、11.6億ウォン)→花粉媒介用デジタル巣箱モデル(23年選定)ー(産業化)スマート花粉媒介技術産業化のための産業財産権8件、技術移転(5件、1183万ウォン)
波及効果(スマート花粉媒介技術による食糧安全保障および農家所得への向上寄与)
- (経済面)ミツバチ減少等の被害克服に伴い、安定的な農作物生産による農家所得の増大ー生産誘発効果:果樹の花粉媒介技術1126億ウォン、スマート巣箱技術12億ウォン(21年、農村振興庁)
- (産業面)花粉媒介ハチの利用技術普及により作物の花粉媒介産業が育成(21年、農村振興庁)ー(利用率)17年:59%→21年:67%、(取引量)16年:45万→21年:58万蜂群/年 ※野菜類が基準
補足
ミツバチ減少について
ミツバチの減少が世界的に起こっているのは10年ほど前から知られるようになりました。
例えば、アメリカでは「養蜂家が管理するハチのコロニーが2010年から毎年平均37.8%ずつ消滅」しているとされています。
ミツバチによる受粉ができなければ、果樹・果菜類(イチゴ、メロン、ナス等)などの多くの作物は生産が不可能になるでしょう。
さて、ハチ減少の原因は「病原体、害虫、ストレス、農薬」に分けられるとされていますが、わが国ではどちらかというと農薬に重きが置かれているようです。
そのような中、巣箱の改良によりハチの生存性や活動性を高めるこの研究は、もっと世に知られてもよいと思います。
蜂蜜が大好きな韓国人
ここからは管理人の個人的な考えです。
韓国における養蜂は、日本よりも農業生産上の位置づけが高いようです。これは、韓国料理の調理法と深く関係しています。
日本料理では、料理の味を甘くしたい場合は、砂糖しか使われません。
しかし、韓国料理では、料理の味を甘くしたい場合には、甘味料を使い分けています。
- ほのかに甘みをつけたい場合:水あめを使用
- 普通に甘みをつけたい場合:砂糖を使用
- 強い甘みをつけたい場合:蜂蜜を使用
これは、韓国では、もともとが砂糖が生産できず、庶民が甘みをとる場合は自家製造の水あめを使い、両班などの貴族階級がお菓子を作るときは蜂蜜が珍重されてきた歴史が影響していると考えられます。