【韓国の農業技術が分かる】2022年韓国農村振興庁農業技術大賞5選のまとめ【韓国政府の農業政策も分かる】

韓国の干拓地(2015.02、高興郡) 技術一般기술일반
韓国の干拓地(2015.02、高興郡)

韓国でも、毎年数多くの農業に関する試験研究が実施され、成果が公表されています。

その中で、韓国の農業関係の試験研究を総括する政府組織である「農村振興庁」が、毎年「農業技術大賞」を選定していることは、日本人はもちろん、韓国人もあまり知らないようです。

韓国農村振興庁は、大賞について、「農業科学技術の開発および拡散を通じて農業者の所得増大、国民の生活条件向上等に寄与した研究者」に対して授与するとしています。

このページでは、2022年に選定された5点の農業科学技術表彰大賞を受賞した5つの研究についてのまとめ記事を作成してみました。

大賞を受けた技術の内容や背景の共通点を把握することで、韓国政府が力点を置きたい農業政策が理解できるほか、韓国の農業事情も理解できます

韓牛の飼料費および炭素低減型飼育技術の開発・普及

【韓国の農業技術が分かる】2022年 韓国農村振興庁 農業技術大賞 5選【その1:韓牛の飼料費・炭素低減型飼育技術】
2022年に選定された5点の農業科学技術表彰大賞の中から、「韓牛の飼料費および炭素低減型飼育技術の開発・普及」について、その概要を翻訳してみました。

区分:農業・協業、表彰者:白ヨルチャン、李ヒョンジョン、所属:韓牛研究所動物生理科

表彰の概要

1.農業・食品副産物を活用し、韓牛の肥育期間を短縮する融合技術開発により、現場連携を促進:パイロット事業、政策事業に反映

(1)副産物活用:飼料費16%節減、所得36%向上

(2)肥育期間短縮:飼料費12%減少、所得34%増加

(3)成果創出:論文(SCI適合)6件、(非SCI)2件、営農技術21件、技術移転6件/投入19億

2.世界初の農業・食品副産物を活用し、農家単位でのTMR製造プログラム開発・普及および優良事例発掘・成果拡散

(1)情報電算プログラム開発5件

(2)現場技術支援58件、コンサルティング297件、農家講義70件、広報成果975点

管理人が読み解く表彰の意義

農業に限らず、各産業で炭素排出量削減を図る技術開発が活発に行われていますが、畜産業では簡単ではありません。というのは、牛のゲップや排泄物から出るメタンは二酸化炭素の25倍の温室効果があるとともに、ゲップ由来のメタンだけで温室効果ガスの4%を占めるからです(参考1)。

また、2022年2月にロシアがウクライナに侵攻して以来、飼料価格は上昇の一途をたどっている参考2)ことから、改めてこの研究が着目されたのではないかと考えられます。

以上のような背景から、①温室効果ガス削減という世界的課題のほか、②飼料価格上昇への対応、③副産物(利用しなければゴミ)という国内の課題解決の両方を満たすこの技術は、受賞すべくして受賞したと言えるでしょう。

小麦自給率向上のための機能性小麦の開発および加工利用基盤構築

【韓国の農業技術が分かる】2022年 韓国農村振興庁 農業技術大賞 5選【その2:小麦自給率向上のための機能性小麦の開発および加工利用基盤構築】
2022年に選定された5点の農業科学技術表彰大賞の中から、「小麦の自給率向上のための機能性小麦の開発および加工利用基盤構築」について、その概要を翻訳してみました。

区分:農業・協業、表彰者:金キョンフン、権ミラ、所属:食糧科学院小麦研究チーム

表彰の概要

1.優秀性:多様な用途の小麦品種を開発
(1)全粒用などの品種出願(3)機能性小麦品種出願(3)
(2)技術移転(25件、30.8百万ウォン) /事業化実績(7件、77.5百万ウォン)/品種普及166件/優良系統育成673系統

2.研究協力:小麦の効能究明および加工技術開発
(1)特許:効能の出願(1)、加工技術登録(4)、商標出願(2)
(2)抗酸化・抗肥満効能の究明、全粒粉パンの加工技術、迅速品質分析法など論文(SCI5件、非SCI20件)

3.懸案解決:種子の普及により既存品種71%を代替および品質検定技術普及により品質等級制の施行
波及効果:小麦新品種の開発と効能の究明により品質競争力向上、政策連携により生産・消費拡大の推進

4.主要成果の件数

(1)品種出願/普及:3/166件、特許出願/登録:5/20件、技術移転:25件、論文掲載SCI/非SCI:5/20本、政策提案:11件、営農活用:9件、受賞・内部/外部:9/4件、投入額:30.1億ウォン

(2)19年:国務総理優秀公務員、19年:科学技術部長官賞有功、20年:優秀課題最優秀賞

管理人が読み解く表彰の意義

食糧輸入大国である日本でも小麦自給率は15%なのに対し、韓国では1%以下と非常に低いです。

そんな中、本研究は、外国の安い小麦に国内小麦産地が駆逐されないように、全粒粉という目先が変わった用途や、抗肥満や抗酸化といった機能性に着目した育種を行い、結果として小麦の栽培面積を伸ばすことに成功しています参考3)。

ロシアのウクライナ侵攻による世界的な小麦不足への解決策に加え、国民の健康増進にも貢献できる本研究の意義は高いと思われます。

異常気象によるミツバチ被害対応に向けた花粉媒介用スマート巣箱の開発および普及

【韓国の農業技術が分かる】2022年 韓国農村振興庁 農業技術大賞 5選【その3:異常気象によるミツバチ被害対応に向けた花粉媒介用スマート巣箱の開発および普及】
2022年に選定された5点の農業科学技術表彰大賞の中から、「異常気象によるミツバチ被害対応に向けた花粉媒介用スマート巣箱の開発および普及」について、その概要を翻訳してみました

区分:産業・個人、表彰者:李キョンヨン、所属:養蜂生態科

表彰の概要

(開発)花粉媒介ミツバチに適合した管理および利用技術(イチゴ等7種)→(応用)花粉媒介用スマート巣箱2種→(普及)新技術モデル事業(2件、78か所、21億ウォン)/現場技術支援:99回/技術移転(1183万ウォン)

1.ミツバチへの効果蜂群寿命が1.6倍に延長、ハチの活動が2.3倍に向上

2.農作物への効果キウイの生産性増大20%、人工受粉費用の減少91%

3.波及効果:果樹花粉媒介用ミツバチによる技術のベネフィット291億ウォン、スマート巣箱の生産誘発効果12億ウォン

4.受賞・論文等:農林畜産科学技術大賞(20年、農林部)、災害安全優秀研究(21年、行政安全部)、感謝牌(22年、花粉媒介協議会)、特許出願8、営農技術15、論文(SCI1、非SCI11)/投入8.3億ウォン

管理人が読み解く表彰の意義

世界的にミツバチの大量死が問題になっていますが、ミツバチによる受粉ができなければ、果樹・果菜類などの多くの作物は生産が不可能になるでしょう。

ハチ減少の原因は「病原体、害虫、ストレス、農薬」に分けられるとされていますが、わが国ではどちらかというと農薬に重きが置かれているようです。

そのような中、巣箱の改良によりハチの生存性や活動性を高める本研究は、もっと世に知られてもよいと思います。

また、韓国における養蜂は日本よりも位置づけが高く、蜂蜜が韓国料理に欠かせない甘味料の1つであることも受賞にはプラスになったと考えられます。

国民とともにつくるわが米、わが品種で食糧主権確保

【韓国の農業技術が分かる】2022年 韓国農村振興庁 農業技術大賞 5選【その4:国民とともにつくるわがコメ、わが品種で食糧主権確保】
2022年に選定された5点の農業科学技術表彰大賞の中から、「国民とともにつくるわが米、わが品種で食糧主権確保」について、その概要を翻訳してみました

区分:農業・個人、表彰者:玄ウンジョ、所属:中部作物科

表彰の概要

1.研究者(交配)、農業者(選抜)、消費者(決定)、地域住民(品種の命名)が参画し、国産米・国産品種の開発および事業化に成功
☞ 日本の稲(「秋晴」、「コシヒカリ」)を100%『国民米』の「ヘドゥル해들」、「アルチャンミ알찬미」に代替し、種子主権の確保および国産米のブランド価値を極大化

2.食味のブラインドテスト評価で、「コシヒカリ」が29%、「秋晴」が2%に対し、「ヘドゥル」が48%、「アルチャンミ」が45%

3.(受賞)国家研究開発100選(21年)、大韓民国品種賞(21年)、今年のブランド大賞(19年)、政府革新最優秀賞(19年)

管理人が読み解く表彰の意義

韓国でも水稲育種は古くから取り組まれており、日本統治時代の1933年には初の交配育成品種ナムソン13号が誕生したとされ、1970年には栽培面積の60%を育成品種が占めるようになりました。

しかし、韓国は1980年頃までコメ不足に悩んでおり、1970年代に収量が従来品種より100~150kg/10a程度多い「統一稲통일벼」が国策で普及して以来、日本より収量重視のコメづくりが展開されてきたと考えられます。

以上の背景を踏まえると、日本の品種「秋晴」や「コシヒカリ」がいまだに韓国内で栽培されているのは問題であるという、韓国政府関係者の強い意向が働いたのではないかと推察します。

機能性サンチュの新品種が睡眠健康製品に変身、グローバル化足場確保

【韓国の農業技術が分かる】2022年 韓国農村振興庁 農業技術大賞 5選【その5:機能性サンチュの新品種が睡眠健康製品に変身、グローバル化の足場確保】
2022年に選定された5点の農業科学技術表彰大賞の中から、「機能性サンチュの新品種が睡眠健康製品に変身、グローバル化の足場確保」について、その概要を翻訳してみました

区分:農業・個人、表彰者:張ソウ、所属:園芸研究所

表彰の概要

1.在来種改良による品種開発:「フカラン<黒夏郎>흑하랑(ラクチュシン124倍増)」、「チョンハラン<青夏郎>청하랑(免疫増強成分増)」、「チョンハラン2청하랑2(サラダ)」 

2.通商実施:6件、実施料20百万ウォン(22年までの累積)

3.種子普及:82ha(原種含む)、売上額68.5百万ウォン

4.現地実証:7か所、(新品種モデル)栽培技術(20年)、生産団地造成(22年)、

5.政策:「フカラン흑하랑」に特化した団地の造成(22年)、食品コードにおけるサンチュの食用部位に「幹」追加

6.ブランド支援:商標4種、技術移転18件、技術料10百万ウォン、「フカラン흑하랑」共同生産者連合会(22年)、原料標準化栽培技術、消費者テスト6件

7.事業化:機能性野菜2件、食品11件、個別認定型4件/輸出4件(加工製品2種)

8.波及効果:栽培規模(30ha, 300トン)、所得創出(農家10億ウォン、産業体42億ウォン)、生産誘発1000億ウォン(個別認定型、輸出)

9.成果数(7年で576件):品種3、営農技術1、政策3、特許4、通商実施6(19.5百万ウォン)、技術移転16(6.8百万ウォン)、コンサルティング103件、対外協力12、事業化17、論文2(SCI1、非SCI1)、生物資源3、広報507点

管理人が読み解く表彰の意義

韓国でも睡眠障害に悩まされる人は多いようです。なので、サンチュの他にも、睡眠導入効果のあるケシ科植物の野草「メラチョ」が昔から知られています。

ただ、メラチョは、ケシ科であることと、野草であることから、栽培には抵抗があるのが実態です。

よって、本研究のように、人体への影響が少なそうであり、プルコギなどを包んで食べるのに欠かせないサンチュ「フカラン흑하랑」が注目されて研究され、産業化に成功したと思われます。

睡眠障害という世界共通の「先進国病」をサンチュという韓国独自の野菜で改善を図るという、いわゆるK-food推進を国家施策としている韓国政府の意向に沿ったのが、本研究が受賞した大きな理由であると思われます。

技術大賞受賞研究を通じた韓国政府の農業政策への視点4選

育種が重視されている

今回の表彰5点のうち、3点(小麦、稲、サンチュ)が育種を中心とした研究です。

育種は、土地を利用する作物(コメ、露地野菜、果樹等)には欠かせない農業改善の手段と言えます。しかも、圃場整備などの直接投資よりもコストが安いので、これからも育種は農業研究の核となりつづけるでしょう。

国際的な課題を充足させる研究が多い

今回の受賞での国際課題は、以下に大別されます。

  1. 飼料や小麦価格の高騰
  2. 温室効果ガスの排出量削減
  3. 花粉媒介昆虫の減少
  4. 睡眠障害や肥満を患者への対応

このうち、良食味米以外の4研究は、以上の国際課題に対応したものと思われます。

国際情勢の変化や世界共通の課題に対応できる研究が選定されることにより、国内の研究者の意識向上とともに、世界に韓国の農業研究を発信していきたいという意思が感じられます

農業者の課題と消費者の課題を両方充足させる

農業者の課題は、第一に所得の増大に他なりません。

あえて加えると、農業の過程で出るゴミを低コストに処分することでしょうか。ゴミ関係は、韓牛やサンチュ(一部)が解決してくれています

では、今回の受賞では、特に国内消費者の課題がどのように整理されているでしょうか。

  1. 肉、蜂蜜、果実をなるべく安価に食べたい(韓牛、ミツバチ)
  2. 肥満や睡眠障害に悩むことなく健康でいたい(小麦、サンチュ)
  3. おいしい主食が食べたい(小麦、良食味米)

当然の話ですが、全て消費者の欲望充足に役に立つ研究が選定されていることが分かります。

部門間のバランスも考慮?

今回の受賞を見ると、水稲、畑作物、露地野菜、畜産、その他(果樹と施設野菜に貢献する養蜂)に整理できます。韓国の農業分類では、特用作物(高麗人参、茶等)、花きを除いたすべての部門に関連していることに気づきます。

このことから、部門のバランスもかなり考慮され、なるべく多くの部門に受賞させるように配慮されていると推測しています。

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