キャベツは、日韓ともに重要な葉菜類ですが、その理由は大きくは2つあります。
- 適切な品種を選び適地栽培すれば、全国レベルで周年供給が可能であり、国中に産地があること
- 様々な料理に使用できるので、国民の食生活維持には欠かせないこと
以上から、日韓両国で生産状況だけでなく、農家の経営状況を調査する品目にもなっています。
でも、個別の農家単位で見て、キャベツがどれほど儲かるかを日本と韓国で比較した資料はほとんどありません。
そこで、このページでは、韓国と日本の最新統計をもとに、両国の単位面積当たりキャベツ収量・単価・経営費・所得・労働時間の概況を整理してみました。4つのグラフと1つの表を準備し、日韓両国のキャベツ経営が直感的に分かるようにしています。
韓国のキャベツ栽培の現状を知りたい方が少しでも参考になれば幸いです。
- 韓国キャベツ作は、収量は日本より若干多いものの、主に単価が安いため、粗収益は日本の50~60%程度である。
- 韓国キャベツ作の経営費は、日本の30~40%程度と非常に安価である。
- キャベツ作の所得は、日韓両国間に大きな差は見られない。強いて言うと、韓国が不作の場合に韓国の所得が低くなる傾向がある。
- キャベツ作にかかる労働時間は、韓国の方が日本より短い。また、雇用労力が占める割合も韓国の方が高い。
- 韓国が不作年の場合は日韓の労働生産性は、金額ベース・収量ベースともに差がみられない。しかし、韓国が豊作年の場合の労働生産性は、韓国の方が日本より高くなる。
日韓両国のキャベツ収量・単価・経営費・所得の比較
キャベツ収量と単価の比較
- 年による差はありますが、キャベツの収量は韓国が日本より1000kg/10a程度多いです。
- 単価は、韓国の方が安く、日本の35~50%程度です。
- よって、粗収益(収量×単価)も韓国の方が安く、日本の50~60%程度です。
- 収量・単価・粗収益ともに、変動係数(%、標準偏差÷平均値×100)は韓国の方が日本より高いです。この理由として、韓国の場合、気象条件が収量に及ぼす影響が大きく、豊作凶作の程度で市場価格の変動幅も大きいと考えられます。
キャベツ経営費の比較
- 経営費は、韓国の方が安く、日本の30~40%程度です。
- 経営費の変動係数は、日本の方が若干高めです、大差はありません。
キャベツ所得の比較
- 所得は、韓国と日本は同程度で、おおむね8~12万円/10aの範囲におさまっています。
- 2019年のキャベツ作の所得は、韓国は不作の影響で日本より30%程度低い状況でした。2020年と2021年は、日韓両国の間にはほとんど差がありません。
日韓両国のキャベツ労働生産性の比較
キャベツ栽培における自家および雇用労働時間比較
韓国
- 韓国では、雇用労力が占める割合が40~50%と高いのが目につきます。
- また、全体の労働時間も年々少なくなる傾向があります。
日本
- 日本では、自家労力が占める割合が85~90%と非常に高いのが目につきます。
- 労働時間は3年間を通じてほとんど変わりません。
両国の労働時間比較
- 韓国のキャベツ作労働時間は、日本の50~60%程度と非常に短いです。
- 雇用労力が占める労働時間は、両国とも、2020~2021年が2019年に比べて減少しています。
- 自家労力は、韓国では年々減少傾向なのに対し、日本ではほぼ変わらない状況です。
キャベツ栽培における自家労働1時間当たり所得比較
- 2019年の自家労働1時間当たり所得は、日韓両国で差は見られませんでした。
- 2020年以降は、韓国の方が日本より時給換算で800~1000円高い状況です。
キャベツ栽培における労働1時間当たり収穫量比較
- 日本の場合、雇用も含めた労働1時間で生産できるキャベツは、55~61kgであり、年次間の差がほとんどありません。
- 韓国の場合、労働1時間でできるキャベツは、年によって大きく異なります。不作年だった2019年は79kg/hrでしたが、豊作年だった2020年と2021年では134~139kg/hrでした。
- 以上を総合すると、韓国が不作年の場合は日韓の労働生産性は差がみられません。しかし、韓国が豊作だった場合は、韓国の方が日本より明らかに高くなります。
補足
使用品種について
実は、キャベツは、品種によって収量に差があることが知られています。
主に、加熱調理や業務用(例:餃子の具)に用いられる品種は、「寒玉系」と総称され、収量が高く日持ちしますが、葉が固いのでサラダなどの生食には不向きの品種です。
一方、サラダ用に用いられる品種は、「春系」と呼ばれ、玉のしまりが緩いので収量や日持ち性の面では寒玉系より劣りますが、生食に向くので食味が良いです。
以上からお分かりのように、寒玉系は春系に比べて収量が高い反面、単価が安い傾向があります。
今後調査していくつもりですが、韓国のキャベツはほとんどが日本で言うところの寒玉系品種で、日本は寒玉系と春系品種がほぼ同面積くらい栽培されているのではないかと思います。
そして、労働時間についても、韓国では無理をして一斉収穫を行うところが、日本では選択収穫(2~3回に分けて収穫物として最も適するものを選んでとる)をしているなどが大きく影響していると考えられます。一斉収穫に向く品種は、当然寒玉系品種であることを考えれば、日韓の労働時間の差はかなり説明できると思っています。
雇用労働について
2020年以降の雇用労働時間が日韓両国ともに減少しているのは、新型コロナウィルス流行により外国からの労働力流入が減少しているのは明らかです。
それでも、19年に対する21年の割合でみると、韓国は25%程度の減少にとどまっているのに対し、日本は45%減少しています。
この要因として考えられるのは、①韓国の方が外国人労働者の減少が少ないこと、②そもそも韓国の雇用労働力は韓国人主体であること、などがあげられます。これも今後の課題としていくつもりです。
機械化について
韓国の方がキャベツ作の労働時間が短く、また年々減少している理由としては、収穫機の利用が考えられます。韓国で収穫機を使用している動画があったので、紹介しておきます。
なお、韓国には自治体が機械をレンタルする事業が一般的に行われています(↓下リンク参照)。
参考資料
韓国農村振興庁「2014年以降所得情報」(농촌진흥청「2014년이후소득정보」):当該ページを操作し、2019年・2020年・2021年の全国(전국)露地キャベツ(노지양배추)に関する情報を抽出
農林水産省「農業経営統計調査>営農類型別経営統計」:令和元年、令和2年、令和3年