【韓国農業事情の今が分かる】(韓国農業新聞23.05.24)タマネギ輸入が増え、ニンニク在庫があふれ・・・早急な需給対策が切実だ【新聞記事紹介・解説】

韓国のタマネギ畑です 新聞記事신문기사
韓国のタマネギ畑(2015.02、高興郡)

韓国農業は、データだけでは分からない事項も多くあります。特に、農村の動向や農業者の意見は、最終的には韓国の農業技術や農業政策を動かす要因になりえるので、把握しておいた方がよいです。

ここでは、23年5月24日付韓国農業新聞に掲載された社説「タマネギ輸入が増え、ニンニク在庫があふれ・・・早急な需給対策が切実だ(양파 수입 늘고, 마늘 재고 넘쳐…빠른 수급대책 절실)」の翻訳と解説を通じ、韓国青果物の流通構造の課題を読み解きます。

最近の韓国のタマネギやニンニクの状況について知りたい方、そして韓国農産物の供給政策がどのように動いているか知りたい方は必見の内容です。

記事の全訳

今年4月まで生鮮タマネギ3万5千トン輸入
冷害被害が押し寄せタマネギ作況「赤信号」
ニンニクの「洪水出荷」憂慮・・・価格暴落が不安
ニンニク・タマネギ流通構造の改善対策が求められる

(韓国農業新聞・金フンジュン記者)「価格が低ければ市場経済云々と言いながら市場に丸投げし、価格が高ければ政府が即刻輸入して価格を下げる、近視眼的な需給政策がはたして正しいと言えるか?」 

最近、タマネギ・ニンニクを栽培する農家たちの嘆きである。タマネギやニンニクの収穫が真っ盛りの農家たちの顔が暗い理由でもある。タマネギの場合は物価安定を理由に最近まで輸入量が大幅に増加し、ニンニクは生産量の増加と在庫累積などを理由に価格暴落が懸念されている。農薬代、肥料価格、人件費、流通費など青天井の生産費に農家たちは赤字が避けられない危機に瀕している。

このため、昨年11月、タマネギ・ニンニク生産者たちは、ソウル・龍山区にある大統領執務室付近で、以下のとおり要求したところである。

  • タマネギ輸入の即時中断、ニンニク需給対策の整備
  • 2023年産の国産タマネギ5万トン、国産ニンニク3万トンの公共備蓄推進
  • 生産費・物価上昇率を反映したタマネギ・ニンニクの公正価格保証
  • タマネギ・ニンニクTRQ輸入を全面的に中断
  • タマネギ・ニンニクを含む主要野菜の戦略的直接支払制の実施

最近4か月間でタマネギ輸入量10倍に「爆増」

今年に入り、タマネギ輸入量が大きく増えたことが確認された。本格的な収穫期である5月までにも約4万トンが国内に入ってきた。

関税庁によれば、今年1~4月の生鮮タマネギ輸入量は、全部で3万5840トンである。これは、昨年同期の3059トンと比べて1072%に上昇したことになる。昨年より何と10倍を軽く超える物量が国内に張ってきたことになるのだ。平年輸入量の1万5804トンと比べても2倍以上多い。

政府は、タマネギ価格上昇と物価安定などを理由に輸入することにしたと説明した。特に、飲食店などで好まれる輸入タマネギ価格が国産より高く形成されており、外食業界の負担を減らすために輸入して供給するのが不可避という立場である。翌月には本年の中晩成種タマネギの作況が悪く、生産量減少が懸念され、低率関税割当物量(TRQ)を2万トン増量する計画も出された。

タマネギ生産者たちは、政府の輸入政策を猛烈に批判している。(社)全国タマネギ生産者協会は、「輸入はタマネギ農家のためではなく、消費者のためでもない。出荷期の価格安で利得を得るのは大規模流通や貯蔵業界だけ」と吐露した。

タマネギ生産者協会は、「自立関税タマネギの輸入以降、輸入タマネギ価格が下落したが、これと同時に国産の新タマネギの価格も下がってしまった」と話す。

また、「輸入タマネギ消費活性化のため、国産タマネギ価格を下落させるかっこうだ。このときは、可楽洞にあるソウル中央卸売市場の市況は下落したかもしれないが、末端消費者のタマネギ購入価格に大きな影響はなかった。消費者価格の安定と言うが、実際は大規模流通業界だけが金を稼ぐ構造がますます強固になるのではと心配している」とあてこすった。

さらに、「農家には生産費の保障、消費者には適正価格の輸入タマネギではなく国産タマネギを供給できるように流通構造改善を要求する」と主張した。

タマネギ生産者たちは、政府がTRQ物量を2万トン増やしたことに関しても反発している。企画財政部は、昨年8月に「市場接近物量の増量に関する規則」の一部改正案制定を予告したことがある。これは、低率関税タマネギ輸入物量を、現行の2万645トンから4万645トンと2万トン拡大する内容だ。

この措置に、タマネギ生産者たちは、低率関税輸入量を増やすのではなく、より必要なのは国産タマネギの備蓄であると主張した。タマネギ生産者協会は、「タマネギ輸入量を増やす予算で国産タマネギの備蓄を拡大せよ」、「2021年と2022年に、それぞれ1万トン、2万トンずつ進めてきた国産タマネギ備蓄事業は、それなりの市場調節機能があった」と話した。

一方、ソウル中央卸売市場の今月6日付タマネギ卸売価格は、A品基準でkg当たり1584ウォンだったが、それ以降は下落傾向で、20日付では1024ウォンまで下がった。

タマネギは自然災害が重なり作況不安まで

2023年産の中晩成種タマネギの作況に赤信号が灯った。最近、一部の主産地で冷害被害が発生し、生産量が減少するという予想が出たためだ。これに対し、生産現場からは、タマネギ価格保証のために政府の需給対策を要求されている。

タマネギの主産地である全羅南道務安では、最近、冷害が続出している。4月中旬までは概して良好であったが、4月末に気温の日較差が大きいことから霜害が発生し、5月初めの全国的な強雨により病害が発生し、全体的な生育に問題が発生したもの。現場では、今年の生産量に自信が持てない雰囲気だ。

これに対し、今月15日、タマネギ生産者協会は、全南西南部野菜農協の本店前でタマネギ価格および農協個別取引価格保証を催促する記者会見を開催した。タマネギ生産者たちがこの野菜農協に集まった理由は、ここのタマネギ個別取引価格が全国のタマネギ価格を決定づける基準になるためだ。

タマネギ生産者たちは、「4~5月の遅霜による冷害でタマネギ生産量の減少は予測されている。また、今年の農業経営費は、人件費・農薬代・肥料代・流通費用などが昨年より二倍以上に上がった」、「最小限の物価上昇率と生産費上昇率を反映した取引価格になることを願う」と胸の内を明かした。

ニンニク価格の暴落が懸念・・・農家の不安増す

ニンニク生産現場でも混乱しているのはまったく同様だ。2023年産のニンニク価格に対し、現場の不安感は大きくなりつつある。今年はニンニクの栽培面積が増え、生産量が増加すると見込まれる中で、ニンニクの在庫も平年より多く、収穫期のニンニク価格が大暴落しうるという懸念にあふれている。

統計庁によると、今年のニンニク栽培面積は2万4710ヘクタールであり、昨年の2万2362ヘクタールより10.5%増加した。寒地系は4370ヘクタールと昨年対比で2.1%減少したものの、暖地系が2万340ヘクタールと昨年より13.6%増えた。統計庁は、2020年からニンニク価格が上昇してきたせいで栽培面積が増えたと分析している。

韓国農村経済研究院(以下、農経院)では、今年のニンニク生産量は32万7000トン程度になると予想した。これは、昨年より12.2~12.9%増加したレベルである。
問題になっているニンニクの在庫も、平年の水準を上回っている。農経院によれば、4月末日現在の2022年産暖地系ニンニクの在庫量は、約1万4000トンで、前年対比4.5%、平年対比7.4%増加した。

こうした在庫のせいで、ニンニク生産現場では予約売買が昨年の半分にも達していないという噂である。在庫負担のせいで、産地商人たちの予約売買が消極的な今の状況では、7月以降から本格的に続く主産地の競り売りで出荷量が大幅に増えて価格が下落する予測も出ている。

(社)全国ニンニク生産者協会は、「ニンニクの在庫増加、7月の共販での洪水出荷が不可避であることなどから、ニンニク生産農家の不安は強くなるばかりである」と吐露した。昨年のニンニクTRQ輸入と新型コロナウィルスによる消費不振などにより、ニンニクの在庫量が多くなったという。実際に、2022年産(6~12月)ニンニク輸入量は、前年同期対比89.5%も増加した5万4921トンであった。

ニンニクの価格に対する不安感は、そのまま個別取引価格にも影響している。最近、済州島の大静農協のニンニク(南道種)契約栽培単価が、kg当たり3200ウォンに決定された。これは、2022年の4000ウォンや2021年の3500ウォンより低いレベルだ。大静農協の個別取引価格は、全南西南部野菜農協のタマネギ価格にように、今年のニンニク価格の基準になる。このことから、ニンニク生産者協会は、契約栽培単価の再検討することを要請してきたところである。

「一日でも早く需給対策を打ち立てねば」

ニンニク生産者たちは、市場に湧きあがる不安感をなくすためには、少しでも早く需給対策を講じなければならないと、口をそろえて語る。

ニンニク生産者協会は、「政府は、2023年産のニンニク価格下落問題が深刻になりうるという事実を早く認識し、今からでも直ちに価格安定対策を推進せねばならない」と主張した。

さらに、「ニンニク3万トンを公共備蓄用に政府が買い取って価格安定対策を樹立する必要があり、生産費上昇などを考慮して農家の所得補填のため、ニンニク価格は最低でもkg当たり4500ウォンになるように保証しなければならない」と強調した。

一方、最近、政府では、韓国農水産品流通公社(aT)を通じた政府備蓄ニンニクの輸出に舵を切ったことが確認された。今月19日、aTは、2022年産政府備蓄ニンニク18万7960kgに対する輸出用公告を出した。ニンニク生産者たちは、以前から政府備蓄在庫を市場から完全に隔離する手段として、備蓄ニンニクの輸出を引き続き要請してきた。

管理人の補足

韓国におけるTRQ(関税割当制度)について

関税割当制度とは?

一定の数量以内の輸入品に限り、無税または低率の関税(一次税率)を適用しますが、この一定量を超える輸入分については高税率(二次税率)が適用され、国内生産者の保護を図る仕組みです。

この枠組み自体は、WTO(世界貿易機関)加盟国であれば、「特定の国に対して差別的に適用しないこと」を条件に加盟国独自の判断で設定することができます。

日本では、バター、脱脂粉乳、コーンスターチ用トウモロコシ、落花生、パインアップル缶、繭および生糸などを対象に、「特定の国に対して差別的に適用しない」TRQが設定されています。

また、別に、日本の経済連携協定に基づく関税割当制度の対象品目もあります(参考資料:関税割当制度もご参照ください)。

韓国のTRQ適用品目について

2022.12.28付ニュースピム記事によると、韓国のTRQ適用品目は70品目に及んでいます。

大豆、砂糖、小麦ふすま、加工用トウモロコシなどの農産物もありますが、大半は工業製品です。

うち、以下の6品目がタマネギ等で問題になっている「緊急割当関税延長」品目です(カッコ:延長期間、一次税率→二次税率)。

  • タマネギ(2.28まで、10%→50%)
  • 鶏肉(3.31まで、0%→20~30%)
  • さば(3.31まで、0%→10%)
  • 豚肉(6.30まで、0%→22.5~25%)
  • 鶏卵加工品(6.30まで、0%→8~30%)
  • 素酒精(6.30まで、0%→10%)

このうち、タマネギは、本来課されるべき関税率(二次税率)が50%と高く、これが一時的かつ一定の数量以内とはいえ10%(一次税率)にまで下げられたことから、輸入が急増したものと考えられます。

そして、50%という二次税率の高さは、全70品目中最も高いことから、国内のタマネギ生産者を保護するために聖域化するための税率と考えてよいと思います。

韓国農水産品流通公社(aT)について

韓国農水産品流通公社紹介動画(韓国語)

韓国農水産品流通公社(aT)は、農林畜産水産物の価格安定・輸出増大・流通改善および食品産業育成を目的に設立された、農林畜産食品部傘下の委託執行型準政府機関とされています。

当初は、(所得が上がりにくい)農業と(上がりやすい)工業間の格差是正を図る機関として設立され、工業製品だけでなく、農産品に付加価値をつけて積極的に輸出を図る機関として設立されました。

時代とともに主要業務を変え、現在は農林畜産水産物の価格安定が主要業務となっています。

例えば、2018年には鳥インフルエンザで韓国内の鶏が30%以上処分されたことがありましたが、結果、深刻な卵や鶏肉不足に陥りました。このとき、世界中から卵や鶏肉が安い地域を探し、卵はスペイン等から、鶏肉はブラジル等から緊急輸入しています。

これ以外にも、国民の生活維持に必要な食料品が不作になりそうな場合、同様のことを行っているようです。

日本には見られないこの種の機関aTが、なぜ韓国にはあるのでしょうか? その答えは、大韓民国憲法にあります

第123条第4項 国家は農水産物の需給均衡と流通構造の改善に努力し、価格安定を図ることにより、農・漁民の利益を保護する。

국가는 농수산물의 수급균형과 유통구조의 개선에 노력하여 가격안정을 도모함으로써 농ㆍ어민의 이익을 보호한다.

すなわち、食料が不足すると、政府は国民のために確保に努力しなければならないということなのです。また、いわゆる豊作貧乏になったときにも、農家のためになる価格安定政策をしなければなりません。

今回のような新聞記事が出されている背景として、不作だから撮って輸入しすぎ(タマネギ)、豊作が予想れるのに政府備蓄を増やしていない(ニンニク)という韓国農家の怒りにあります。

しかし、同時に、国民の食生活を維持しなければならないという観点から、不作時にはaTが輸入を行っているのです。

よって、aTは、生産者と消費者の利益が相反するのを必死に調整するという困難な業務を行っていると思います。

参考資料

출처(出典) : 한국농업신문(韓国農業新聞ホーム) / 当該記事

関税割当制度とは?:投資用語集HPより23.05.26閲覧

2023年割当関税適用品目および関税率(2023년 할당관세 적용물품 및 관세율):2022.12.28付ニュースピム記事より、23.05.26閲覧

韓国農水産品流通公社公式HP(한국농수산식품유통공사 공식 웹사이트):23.05.26閲覧

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