ミツバチは、はちみつを採取するための家畜だけでなく、花粉媒介者としての役割も持っています。
なので、人間にとっては非常に重要な生物と言えます。
しかし、最近、ミツバチが飼いにくくなったという話は、世界のあちこちで言われており、韓国でもなるべくミツバチを飼いやすくする対策技術の開発が進められています(下リンク参照)。
以上は、韓国での関心も高いようで、ミツバチがなぜ減少しているかの真の原因を探るべく、韓国を代表するリベラル紙「ハンギョレ」が3回にわたり特集しています。
ここでは、特集の1回目を全訳し、管理人なりに補足していきます。
はちみつや養蜂に興味がある方は必見です。
記事「失踪したというミツバチ、蜜は3倍にも増えて・・・『集団斃死ミステリー』の真実は(실종됐다던 벌, 꿀은 3배나 늘어… ‘집단폐사 미스터리’ 진실은)」全訳
執筆:ハンギョレ(23.06.09)南ジョンヨン記者
副題:[気候変化特別企画]ミツバチ失踪事件の真実①
- ミツバチは消えたのか、そのままなのか
- アインシュタインの嘘? ミツバチに対するいくつかの誤解
- 気候変化がもたらす虚弱なミツバチ
記事本文全訳
昨年から韓国に上陸した「ミツバチ集団失踪事件」が話題だ。
2006年にアメリカではじめて発生し、いまだ謎が多いこの事件を静かに明らかにしようとするものです。
「今年3月基準で当協会所属農家8千か所を調査しましたが、60.9%に及ぶ巣箱に斃死がありました。
普通は、巣箱1個につきミツバチが1万5000匹~2万匹くらい活動します。
これくらいならたくさん死んだと考えるべきでしょう」
関係者によって異なる温度差
2023年6月6日、尹ファヒョン・韓国養蜂協会会長が電話越しに話しました。
巣箱の3分の2が使えないようになったら、本当に大ごとでないわけがありませんよね。
「数百億匹のミツバチが消えた」など、マスコミのヘッドラインを飾る統計も、たいていは韓国養蜂協会の推定に従ったものです。
その反面、農林畜産食品部は、ミツバチ失踪事件を見る視点に(養蜂協会と)温度差があります。
農食品部傘下機関である農村振興庁は、5月25日に記者説明会を開き、ミツバチの生態と養蜂産業に関する説明をしました。
一種の「教養講座」を開いたのですが、記者の私もミツバチに関して知らなかったことをたくさん知ることができました。
その場で、農村振興庁は、アカシア蜜の生産状況中間調査結果を発表しました。
ミツバチ個体数が3.3倍に増えたという政府
アカシアの木は、5月に花が咲きます。
ミツバチは、アカシアの木から蜜を採集して巣箱に貯め、人間はそれをこっそり持っていきます。
(ええっ!給料も払わずに!)
アカシア蜜は、国内はちみつ生産量の70%を占める養蜂農家・産業の中核です。
この日、韓サンミ・国立農業科学院養蜂生態科長が以下のとおり話しました。
「5月3日に南部地方から調査しましたが、一回採蜜するとき、アカシア蜜の平均生産量は巣箱当たり8.3kgでした。 平均3~4回採取することを考えれば、生産量は平年値を超えると思われます。 ミツバチの個体数も3.3倍増加しました」
韓国養蜂協会と全く異なる結果でした。一方ではミツバチの3分の2が消えたというのに、もう一方では「(ミツバチ)勤務中、異常なし!」と言っているのですから。
それから10日過ぎた6月7日、生産量調査が終わったのを見計らって韓サンミ科長に電話をかけました。
「今年のアカシア蜜生産量は昨年より少ないですが、平年値程度にはなりそうです。
昨年は生産量がすごく良かったのですよ。
来週中には総合分析結果を発表するつもりです」
ここで平年とは、2017年を意味します。
この年のアカシア蜜は、巣箱当たり17.7kg採れました。
はちみつ生産量は、とにかく凹凸が激しく、平均をとらえるのがとても難しいのです。
毎年の生産量を見ましょうか?2017年は17.7kgだったのに、2018年には4.3kgに落ちぶれました。
2019年には43.8kgまで上り詰め、2020年には9.0kg、2021年には11.5kg、2022年には32.1kg・・・グラフを描いてみれば、平均というには意味がないほど上下動が激しい「3次グラフ」ができます。
ハチに対して無知な記者である私が、勇気を出して問いかけます。
「はちみつ生産量は、なぜこんなに(年次間の)凹凸が激しいのですか?」
「花が咲くのは1週間から2週間程度です。
ところが、その短い期間に雨が降れば、ミツバチは外に出て蜜を取れないようになります。
風が吹いてもまったく同様です。
蜜を採りに出かけて戻れないこともありえます」
そうだな! 雨が降れば昆虫は飛べないよな!
その何日間の天気によってアカシア蜜は、年間生産量に大きな差が生じざるを得ないというのです。
ミツバチが家畜ですって??
養蜂協会の調査方法
それでも、韓国養蜂協会と政府との分析の間には、ギャップが大きすぎるように思えます。
じっくり考えてみると、解答のカギは調査方法にありました。
「ミツバチの個体数を評価する基準」や「はちみつ生産量を算定する基準」などオーソライズされた調査方法がいまだ確立されていないのです。
まず、養蜂協会側を見ましょうか? 農家8千か所に質問して集計したものであり、科学的方法に立脚した精密な調査とは言いがたいでしょう。
マスコミで億単位の個体数を引用し、「ミツバチが消えた」と連日報道する社会的雰囲気も、調査対象農家に影響を及ぼすこともありえます。
尹ファヒョン養蜂協会会長は、
「巣箱ひとつにミツバチが10~20%残っていても蜂群を維持できないため、巣箱全体が消えたと思わねばならない」
と語ります。
しかし、ミツバチは、冬が過ぎれば死ぬ個体もあることを考慮せねばなりません。
ミツバチは冬に入ると、長い休止期に突入します。
巣箱から出ずに寒い冬を耐えるのです。
春になって巣箱を開ければ、個体数が減っているのは自然な現象です。
韓国政府の調査方法
その反面、政府の調査方式は、同一地域の農家38か所を毎年調査する方式を続けています。
調査対象が年ごとに少しずつ変わりはしますが、大部分は昨年の対象がそのまま維持されます(追跡調査をする理由は、天候や技術等の変数による差異が大きすぎるためです)。
特に、政府の調査は、「(ミツバチが)死んだ巣箱」でない「(ミツバチが生き残って)生産可能な巣箱」からはちみつ生産量を割り出すところに限界があります。
韓科長は、
「冬には産卵しないので、越冬が終わればミツバチは死んでしまうのは必然」
「また、農家では巣箱を合併したりもするので、そういう数値も考慮する必要がある」
と語りました。
農家では、ミツバチの個体数が減ると、巣箱を合併することや、他の場所に巣箱を移して新しく蜂群を作ったりもします。
そして、みなさん! 忘れてはならぬ事実があります。
ミツバチは、人間の統制範囲にいる「家畜」という事実をです。
もちろん、自然生態系の奥深くに入り、他の動植物と相互適応するという点で、他の家畜とはちょっと違いはしますが。
「ミツバチが今年100匹死に、さらに50匹死に、結局ゼロに減ってしまうように、ミツバチがいつかいなくなってしまうと心配される方もいます。 養蜂農家のみなさんが、ミツバチ減少を身をもって感じているのは事実です。 でも、巣箱が減っても、また育成して生産量を増やせます」
韓サンミ科長は、ミツバチが人間の統制下にいることを強調します。
韓国ではじめてミツバチ失踪事件が論点になった昨年のアカシア蜜の生産量は、意外にも最近6年中2番目に多いものでした。
過去にもミツバチの集団減少が何回かあったのも、彼女の見解です。
ただし、今のように注目を浴びなかっただけということです。
ある年の開花期の気象条件と天気の幅、「ミツバチヘギイタダニ」など寄生虫やウィルス、そしてこれらと関連した気候変化はもちろん、農家ごとの養蜂技術の差と「飼養ミツバチ(砂糖を食べさせて飼うミツバチ)」導入など、飼育方式などもミツバチの健康に、直接・間接的な影響を及ぼすのです。
(2006年にアメリカではじめて明らかになった「群衆崩壊現象(CCD)」は、別の問題として分離するのが良いです。このシリーズの3回目に詳しく見ていきます)
ミツバチの滅亡は人間の滅亡?
われわれは、ミツバチの失踪に対してなぜ高い関心を持っているのでしょう?
養蜂農家の生計など経済的要因のせいもあります。
でも、みんなが心配する理由は、ミツバチがわれわれの食料と植物を維持してくれる「花粉媒介者」であるためです。
ミツバチは、花に飛んで行って蜜を取りながら、いつの間にか花粉を運ぶことにより、植物に実を着けさせるようにさせます。
「ミツバチが滅亡すれば、人類も4年以内にいなくなる」という言葉がありますので(これをアインシュタインが言ったというのは誤りです)。
ところが、ミツバチに対する過度な関心と至らない対案が、自然生態系にはむしろ逆効果を引き起こしうると警告する外国の論文があいついで出ています。
ミツバチだけが花粉媒介者ではないためです。次回は、これに関してもお知らせするつもりです。
この文の続きは以下のリンクからお読みください。
記事の解説
韓国人に親しまれているはちみつ
この記事自体が、ミツバチをめぐる優れた解説記事になっているので、私から解説できることは多くありません。
ただし、下のリンクに示したように、韓国は料理や菓子の材料としてはちみつを使う機会が日本より多いのは確かです。
なので、ミツバチに関する世間の関心も高いのでしょう。
韓国におけるはちみつの価格
では、韓国では、はちみつの価格はどの程度なのでしょうか?
2022年6月2日付で、韓国の「畜産新聞」がアカシア蜜について以下のような記事を出しています。
これは、あくまで生産者に払われる金額の基準です。
(前略)一方、養蜂協会は、今年のはちみつ収買価格について、昨年の「1+等級」基準1ドロップ(288kg)当たり280万ウォンから、30万ウォン引き上げた310万ウォンと定め、ここに配当金(30万ウォン)と飼料支給金(40万5000ウォン相当)を加え、1ドロップ当たり380万ウォンに策定した。(後略)
また、2023年6月1日付「韓国養蜂新聞」は、アカシア蜜の小売価格について以下のように書いています。
こちらは、現に流通しているはちみつの実勢価格です。
アカシア蜜の小売価格は、1瓶で8万ウォン台で形成されている。5月末現在、農協ハナロマートでアカシア蜜2kg瓶の小売価は73900ウォンである。これを伝統的な2.4kg瓶に換算すれば、1瓶88680ウォンということになる。(後略)
以上のことから、韓国におけるはちみつの価格は、以下のように整理できます。
- 生産者が手にする収買価格は、1kg当たり13914ウォン(10ウォン=1円でキロ1391円)
- 実際に売られている価格は、1kg当たり36950ウォン(同キロ3695円)
以上のように、生産者価格と実勢価格の間には実に3倍近い格差があるといえます。
さらに言うと、2022年は豊作だったのに収買価格が引き上げられていることから、韓国でははちみつの需要が根強く、価格下落が起きにくいことも示唆されます。
以上を合わせ考えると、養蜂農家は「ミツバチがとにかく元気でいてくれて採蜜量が多い」ことが収益の根本であり、何かの原因で養蜂がうまくいかないことが、気候変動とも相まって話を複雑にさせているのだと考えられます。