2024年夏以降、コメの価格が急騰していて、筆者が住む地域のスーパーでも5kg袋で4000円を超えるのが当たり前になってきました。
こうなると、海外に出張に出かけた際に現地のコメを購入して日本に運んでくる方が経済的だという発想に行きつきます。
でも、コメをはじめとした植物の持ち込みには様々な規制が存在し、一筋縄ではいきません。
そこで、9か月ぶりに韓国に出張するのを機会に、手荷物としてコメを日本に正当な手続きを経て持ち込みましたので、その顛末を3記事に分けて書いておこうと思います。
第1弾は、制度の全般的な理解、特に日本側の関税や植物検疫法について説明した後、手ぶらで出かけて行って韓国当局から検査申請書用紙をもらう方法を紹介しました。
続く第2弾は、購入時の注意事項として店の立地や店頭での品質確認方法を紹介するとともに、韓国当局からもらった検査申請書用紙に記入する方法を説明しました。
最後となるこの記事は、日韓両国での植物検疫窓口の探し方ややり取りを説明するとともに、「輸出植物検疫申請書(수출식물 검역신청서 Application for inspection of plants exporting)」の別の入手方法を考えたいと思います。
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釜山港「携帯輸出植物検疫室(휴대수출식물검역실)」
場所
釜山港は、2階が入国エリア、3階が出国エリアになっています。従って、駐車場エリアなどがある1階に行った日本在住者は多くないと思います。

ターミナル内のエレベーターで1階を押すと上のような1番ゲート出入口があります。出入口を出て、「通関場(통관장)」と矢印が書かれた方に向かいますが、出入口と通関場の間は普通の駐車場になっているので注意が必要です。

しばらく駐車場を進むと、柵で囲われた区域にぶつかります。この内部が通関場です。構わず進んでよいですが、本来は商業貨物の輸出通関を行う区域ですので、中にいる人も少し殺気立っています。もしかすると仕事をしている方から

무엇 하러 왔어?(ムォタロ ワッソ? 何しに来た?)
と言われるかもしれませんが、

식물 검역을 받으려고 왔습니다(シンムル コミョクル パドゥリョゴ ワッスムニダ 植物検疫を受けに来ました)
などと答えれば指差しなどで教えてくれると思います。
中を少し進むと、大きな物置のようなプレハブが見えます。

看板には「농림축산검역본부 영남지역본부 휴대수출식물검역실(農林畜産検疫本部 嶺南地域本部 携帯輸出植物検疫室)」と書かれており、カウンターに1名、奥の事務スペースに1名いるような感じでした。
検疫室でのやり取り
中に入ると、「アニョハセヨー」などと声をかけ、前回の記事の例に沿って書いた「輸出植物検疫申請書」とパスポートを出しましょう。続いて、申請対象の現物をカバンから見せるようにしましょう。
以下は、申請書や現物を見ながらの検疫官と私のやり取りです(実際は韓国語)。
検疫官「当番の担当官から、いらっしゃることは聞いていました」
私「ああ、そうですか」(名刺なんて渡さなきゃよかった・・・)
検「ところで、当番からは20kgと聞いていたのですが、実際には19kgのようですね」
私「玄米が適当な包装のものがなくて9kgになりました」
検「まあ、すぐに修正できますから。ところで、業務用ではないですよね」
私「家で食べるご飯用です。最近の日本はとにかくコメが高くて」
検「この2年、私も時々日本に出張しているのですが、コンビニなどでおにぎりを買うとものすごく高くなっていて驚きました」
私「農業資材の貿易で暮らしている私がこんなことを言うのも変ですが、今の日本のコメは不当に高いと思います」
別の検疫官(PCを操作しながら)「日本のお米の値段はどれくらいですか?」
私「韓国のお金で言うと、5kgで4万5千ウォンくらいですね」
別の検疫官「うわ、高っ!」
検「それはハンドキャリーしてでも買いたくなるはずですね。1年につき1人100kgまでなら無関税と聞いたので、あと何回か同じことをされるわけですね」
そんな話をしているうちに、輸出植物検査証明書が完成しました。植物「検疫」と言えどもまったりとした雰囲気だったことは、会話の内容を聞いていただければお分かりになるかと思います(個人的には、病害虫の持出しや持込みの心配が少ないコメだったからだと思います。また、筆者のことを「私たちの側にいる方だ」と思ってくれたのであれば、こんなうれしいことはありません)。
反面、名刺を渡しただけなのに私のことが組織内で情報共有されていたこと、植物検疫とは直接関係ない日本のコメ輸入規制(1年につき1人100kg)などもきちんとご存じだったことなどを考えると、力量がある組織と考えられます。

輸出植物検査証明書
やり取りをしている間、韓国人の商売人がドアに乾燥高麗人参の箱を置きながら「これよろしく頼みますよ。申請書は昨日の夜に送ったから。ちょっと別の通関をしてくるので」と言い残して足早に去っていきました。
あと、料金は無料でした(申請書にもそのように書かれていました)。

検疫を受ける高麗人参の箱
「植物検疫カウンター」「税関」
入国までは、検査証明書は紛失しないように厳重に保管しましょう(植物検疫コーナーは検査証明書の原本しか受け付けていません)。
入国審査後、植物検疫コーナーで現物を見せながら「輸出植物検査証明書」を提出し、その場で「米穀の輸入に関する届出書」を書けば、袋数に見合った枚数の「合格証印」と税関提出用(+本人控)の「届出書」をくれますので、袋ごとに「合格証印」を張りましょう。
あとは税関に「届出書」を出して、「合格証印」を張った現物を見せれば終わりです。私の場合は、「届出書」を出すと、「植物検疫を受けているのだから、現物まで見せる必要はないです」と言われました。

米穀の輸入に関する届出書

植物等検査合格証印
これで合法的に韓国からコメを持ち込むことができました。
別の方法はなかったか?
より簡単に申請書を作成するには
第1弾で入国時に輸出植物検疫申請書がなかったので、わざわざ検疫官に来ていただいて用紙を入手したことを書きました。
でも今から考えると、ちょっとオーバーではなかったかと思います。
確かに、韓国農林畜産検疫本部に電子申請できる「植物検疫オンラインシステム(식물검역온라인시스템)」は存在しますが、事前にID登録が必要(しかも、認証時に韓国の通信会社の携帯電話番号を要求される)など明らかに韓国居住者向けであり、旅行者にはなじみのないシステムだからです。
そこで、韓国農林畜産検疫本部のサイトの中で様式を示したページがあるか調べてみたところ、該当ページがあり申請書もダウンロードできるものの、釜山港で渡された様式とは違うものでした(多分、様式の更新が行われていないものと思われます。この様式で効力があるか不明ですし、効力があったとしても英語で併記されていないので書きにくいと思います)。
もっとも近いのが、韓国のあらゆる法律や規則を保存している政府サイト「法制処・国家法令情報センター(법제처 국가법령정보 센터)」のなかに「植物防疫法施行規則(식물방역법 시행규칙)」が保存されており、その中の「別紙第25号書式(별지 제25호 서식)」でした(韓国のワープロソフトで最も一般的なHWPのほかにPDF形式もある)。
この様式にしても、1品目しか書く欄がないので、白米と玄米などのように2品目以上持ち出したい場合は、追加で様々な品目を書く「別紙第5号書式(별지 제5호 서식)」を追加する必要があります。
まあ、次回は、出発前に住所や氏名と買いたい品目だけを定めて作成し、数量(個数、1パッケージの重量、総個数)は空欄にして後から埋めるようにしたいと思います。
スーパー以外(例:在来市場)で購入するには
在来市場や町の米屋さんで買う場合は、袋入りのものを買うようにするとよいでしょう。韓国の在来市場に行くと、白米がタライに山盛りにされている風景(リンク:全国安全新聞<전국안전신문>2019.10.15付記事)をよく見ますが、検疫というより適切な表示がされていないことによる弊害があるかもしれません(まあ、私自身は次に出張したときには挑戦してみますが)。
宅配での輸送は可能か?
韓国から日本に宅配を送るのによく用いられる手段が、国際小包(국제소포)です。20kgという荷物を持って帰るのは肉体的にも負担になるので可能であればそうしたくなる気持ちは理解できます。
ただし、コメの輸入に際しては、以下3つの理由から宅配はお勧めできません。
料金が高い
20kgの貨物を国際小包を郵便局(우체국)で送る際に係る料金(記事作成時点で10ウォン≒1円)を記しておきます(参照サイト)。なお、到着までの所要日数は筆者が住む福岡を基準としています。
- EMS(所要日数3~5日程度、追跡機能あり):91,500ウォン
- 航空一般小包(所要日数5~7日程度、追跡機能なし):68,000ウォン
- 船舶一般小包(所要日数10~15日程度、追跡機能なし):57,000ウォン
このように、宅配で送ると仮に安いコメを買ったとしても、差益のほとんどが宅配料金に消えてしまうのが最も大きな問題です。
言語の壁がある
各空港(仁川、金浦、金海、済州)内に設けられた郵便局は、英語や日本語に堪能なスタッフがいますのであまり心配ありませんが、それ以外の郵便局は日本語はおろか英語もあまり通じません(この辺は日本も同様と思います)。
なので、購入場所近くの市中郵便局から小包を送るのは、ある程度の韓国語能力は欠かせません。
植物検疫を受けられる場所が郵便局の近くにない
農産物特有の問題ですが、国際便が発着している空港や港にはこの記事で紹介したような検疫室はありますが、市中に検疫室があるわけではないからです。韓国では、空港だけが郵便局と検疫室が隣接している区域と言えます(釜山港は構内に郵便局はありません)。
宅配でも検査証明書の提出が必須
なお、宅配でコメをはじめとした農産物を送った場合であっても、韓国当局が発行した「輸出植物検査証明書」の提出は必ず求められます。
日本では、別送品で農産物を受け取る場合、帰国時に「植物検疫カウンター」にその旨届け出るか、帰国後に地方農政局に届け出ることになっており(農水省サイト「お米を輸入される方へ」)、その過程で韓国当局が発行した検査証明書が出せないと「任意放棄」させられるからです。
また、外国から届いた宅配荷物は、国際郵便物の税関手続を担う外郵出張所で「AIを活用したX線画像識別処理システム」により恐らく全数検査されているので(NEC広報記事、「日本経済新聞」2018.02.20記事)、宅配でこっそり輸入しようなどとは間違っても考えない方がよいでしょう(密輸であり、最悪の場合は懲役を伴う違法行為です)。
まとめ
以上、この記事では、韓国でコメを購入して日本に持ち込む際、釜山港と下関港における実際のやり取りを中心に説明しました。
あわせて、今回の方法以上にスマートな方法があるかも考えてみた結果、苦労は多いもののハンドキャリーが一番効率的であると考えます。
今後は、例えば在来市場で量り売りのコメや、野菜など別の品目を購入して持ち込んだりして、ハンドキャリーで韓国の農産物を日本に持ち込むことに慣れていきたいと思います。その報告もいつか書きたいと思いますので、お楽しみに。