先日、旅行者が韓国国内でコメを購入し合法的に輸入する方法についてまとめた記事を公開しました。



でも、上の記事では、自らが買った商品は公開していても、日本人の口に合いそうな品種についてはほとんど言及しませんでした。
また、旅行者の場合は、居住者と異なりあちこちを回ってゆっくりと米を選んでいる余裕などないかと思います。
そこで、この記事では、主に品種に焦点を当てて、韓国のスーパー等で日本人の口に合いそうな銘柄を手早く選ぶために知っておくべき点を解説します。
コメの食味を決める2大形質
米の食味を構成する要素は、外観・粘り・硬さ・香り・五味(特に甘味)など多岐にわたりますが、中でも重要な指標が硬さと粘りです(農林水産省資料「売れる米づくりに向けたポイント」)。
ご飯の硬さはコメのたんぱく質含量が大きく影響しており、粘りはアミロース含量が大きく影響しています。以下、たんぱく質含量とアミロース含量について簡単に解説します。
たんぱく質含量
日本での経験則として、食味が良いコメは、玄米のたんぱく質含量が5.5~7.0%の範囲であることが分かっています(みんなの農業広場「良食味米の栽培法」)。
上記は、韓国でも同様で、玄米のたんぱく質含量を7.0%以下にするのが食味維持の最低条件としています(農村振興庁ブログ「ご飯の味を左右する4種の要素(24.12.12)」)。
また、コメのたんぱく質含量は、品種による違いはあるものの、主に施肥量によって大きく左右され、たんぱく質含量を7%以下にするためには10a当たり窒素施用量を7.0kg以下にすべきという見解は日韓とも一致しています(日本:農作業便利帳「収量・品質を決める施肥」、韓国:農業振興庁前掲ブログ)。
以上の知見に基づき、任意表示事項ではありますが、韓国ではたんぱく質含量がコメの品質表示基準に入っています(コメの等級およびたんぱく質含量基準 第3条)。
- 수(秀):たんぱく質含量6%以下
- 우(優):同6.1~7.0%
- 미(未):同7.1%以上
アミロース含量
米の主成分はでんぷんですが、でんぷんはアミノペクチンとアミロースの2成分から構成されています。
そして、日本では、でんぷんに占めるアミロースの割合が16~18%前後の品種が多いことも分かっています(農林水産省「売れる米づくりに向けたポイント」)。なお、東南アジアやインドなどで多く栽培されるインディカ米のアミロース含量は22~28%程度、もち米にはほとんど含まれていません。
また、コメのアミロース含量を左右するほとんどの要因は品種であり、栽培地域や方法による差は数%とされています(以上、植物生理学会「みんなのひろば」:お米のアミロース含量)。
韓国産米の選び方の基準
以上の内容から、具体的な選び方の戦略について整理すると以下のようになります。
- 韓国で栽培されている日本由来の品種を選ぶ
- 韓国で育種された品種を選ぶ場合は、たんぱく質含量が6.0%程度+アミロース含量が18~19%の範囲になりやすい品種を選ぶ
- 生産量が比較的多い品種を選ぶ
韓国のスーパーで入手が容易で日本人の嗜好に近い品種6選
コシヒカリ(고시히카리)
日本人ならば誰もが知っているレベルの米で、2022年時点で日本全国の作付面積の33%を占めています(ごはん彩々「コシヒカリってどんなお米?特徴を解説」)。
韓国でも「コシヒカリ」と言えば通用するほど有名な品種ですが、2020年時点での栽培面積比率は1.1%程度と多くはありません(農村振興庁報道資料「田植には外来品種の代わりに国産品種を植えよう」2021.05.20)
ひとめぼれ(히토메보레または한눈에 반한쌀<ハンヌネ パナンサル>)
「ひとめぼれ」も大抵の方が知っていると思います。2022年時点で日本全国の作付面積の8.5%を占めています(ごはん彩々「色やツヤが一目惚れするように美味しいお米『ひとめぼれ』」)。
韓国でもある程度は知られていますが、2020年時点の栽培面積比率は0.3%程度と希少です(農村振興庁報道資料・前掲)。
また、韓国では日本語をそのままハングル表記した「히토메보레」のほか、韓国語に翻訳した「한눈에 반한쌀(ハンヌネ パナンサル)」として表記されていることも多いです。
秋晴(추청<チュチョン>)
「秋晴」は、50年以上前に愛知県の農業試験場で開発された品種であり、「コシヒカリと違ってさらっとした食感で(中略)冷めてもおいしい」とされる品種です(南信州 和合むらサイトより)。
現在の日本では長野県の一部で栽培されているものの、全国的には栽培面積上位20位以内に入っていません(米穀安定供給確保支援機構「令和3年産 水稲の品種別作付動向について」)。
しかし、韓国では、2020年時点の栽培面積比率は6.2%程度と無視できない量を占めています(農村振興庁報道資料・前掲)。
「秋晴」は、韓国でもっとも入手しやすい日本由来品種ですが、ハングルでは「아키바레」(アキバレ)とは表記せずに、「추청」(チュチョン≒秋の추と晴の청を音読みしている)と書いているので注意が必要です。
ヘドゥル(해들)
「ヘドゥル」は、古くから良食味米の生産で有名であった京畿道利川市で、「コシヒカリ」の代替品種として2017年に登録された品種です(育成経過を記した論文)。現在の正確な面積は不明であるものの、利川市やその周辺地域では「コシヒカリ」がほとんど見られなくなるほど減少して、多くは「ヘドゥル」に変わっているとのことです(「農民新聞」2024.8.16付記事)。
たんぱく質やアミロース含量はコシヒカリなど日本品種と同様の値であり、「コメ特有の味と香りが強く柔らかい食感で、丼物や弁当類に向く」とされています。
なお、ヘドゥル(해들)という言葉は、韓国語で「日の出」というくらいの意味です。
アルチャンミ(알찬미)
「アルチャンミ」も「ヘドゥル」同様に、「コシヒカリ」や「秋晴」の代替品種として開発されたもので、登録年が2018年と新しい品種です(育成経過を記した論文)。栽培面積は不明ですが、ECサイトなどでは普通に売られる品種になりました(サイトリンク)。
たんぱく質やアミロース含量はコシヒカリなど日本品種と同様の値であり、「ご飯に艶があり程よい粘り気があり、営養飯(韓国の炊き込みご飯)に向く」とされています。
なお、アルチャンミ(알찬미)という言葉は、韓国語で「粒が最高にきれい」というくらいの意味を持つ合成語です。
サムグァン(삼광)
「サムグァン」は、「食味が良好で倒伏しにくい中晩成種」の育成を目的として2003年に登録された品種です(育成経過を記した農村振興庁資料)。
他の品種と同様に正確な栽培面積は不明であるものの、京畿道では面積3位、江原道、忠清北道、慶尚北道では面積2位の品種であり(「農民新聞」2020.11.02付記事)、どこでも入手できるのが利点です。
たんぱく質やアミロース含量はコシヒカリなど日本品種と同様の値であり、「粘りと柔らかさが調和し噛み味がよい。寿司やチャーハンに向く」とされています。
なお、サムグァン(삼광)という言葉は、韓国語で「三光」という意味です。
その他の韓国米の特性一覧
この他の韓国品種の特性を簡単に示しました。ご覧いただくと、先に紹介した3品種以外はたんぱく質含量かアミロース含量が高い品種が多いうえ、独特の香りがあるとされる品種が多いのがお分かりいただけるかと思います。
品種名 | 特徴 | 推薦メニュー | たんぱく質含量 | アミロース含量 |
アルチャンミ (알찬미) | 飯に艶があり程よい粘り気がある | 営養飯 | 5.6* | 18.6* |
シンドンジン (신동진) | 粒が大きく、飯の炊き加減がちょうどよい食感 | キムパ、クッパ | 7.6 | 18.6 |
チャムトゥリム (참드림) | コメ特有の香り特性が優れる | 丼物、ご飯+おかず | 5.4 | 19.5 |
チャンドゥル (찬들) | 飯粒が本来の形をそのまま維持し、膨らみすぎず、コメの香ばしい香りが高い | クッパ、丼物 | – | – |
ヨンホジンミ (영호진미) | 粘り気や優秀な外観が特徴で、見た目がよい | 石釜飯 | 6.0 | 19.0 |
サムグァン (삼광) | 粘りと柔らかさが調和し噛み味がよい | 寿司、チャーハン | 5.7 | 18.3 |
ジンサン (진상) | 中間もち稲系の香ばしさが特徴の香味系列のコメ | 丼物 | 6.8 | 11.9 |
ゴールドクィン (골드퀸) | 香しいポップコーン香と独特の食味特性を持った香味米 | チャーハン | 6.0 | 12.5 |
ヘドゥル (해들) | コメ特有の味と香りが強く柔らかい食感 | 弁当類、丼物 | 6.1 | 18.0 |
オデ (오대) | 香ばしいが粘りがあり、よく調和した味が感じられ食感が変わらない | ビビンバ | 7.1 | 18.0 |
セイルミ (새일미) | 適切な硬度と炊き加減が感じられる柔らかい食感が特徴 | ビビンバ | 6.1 | 19.0 |
セチョンム (새청무) | 硬い食感で飯を炊いたとき透明で明るい感じ | おにぎり、クッパ | – | – |
ミプン (미풍) | コメが白くて透明で弾性が高く、粘り気が低いので包(쌈)によく合う | ビビンバ | – | – |
イルプン (일풍) | 米粒が丸くぎっしり詰まった食感で炊き加減がよい | ビビンバ | 6.4 | 18.9 |
コシヒカリ (고시히카리) *参考 | 粘り気と柔らかさが調和された食感 | 丼物 | 6.0 | 18.7 |
出典
1.特徴・推薦メニュー:コメの品種別食味を活用したオーダーメイド消費時代に(The Buyer 2022.09.30)
2.たんぱく質およびアミロース含量:通販サイト「Danawa」、アルチャンのみ論文「需要者参加型で育成された最高品質の稲’アルチャンミ’」
韓国食堂のご飯はなぜ美味しくないと言われるのか
韓国旅行に行った方からよく聞くのは、「料理自体は美味しかったが、付いて来たご飯は全くおいしくなかった」という声です。
まあ、旅行者に食堂で提供されたご飯が、日本での韓国米自体の評判を下げていることは間違いありません。何しろ、提供されたご飯がどんな米か分からないばかりか、コメを日本に持って帰って自分で炊飯すること自体も行われていない状況ですので。
そこで、ここでは、韓国食堂のご飯が日本人の口に合わないことが多い理由を、筆者なりに説明してみたいと思います。
品種
まず、食堂で一般的に提供されるご飯の品種は、「シンドンジン(신동진)」が主体であるとされています。
「シンドンジン」は、上表で見たとおりたんぱく質やアミロース含量が高いので、インディカ米のようなバサバサの食味になりやすいのが特徴です。
それでも、栽培しやすく収量も高いので(韓国農漁民新聞「2020.01.21付記事」)、全羅北道や全羅南道では栽培面積の50%以上を占めています(農民新聞「2024.01.15付記事」)。
また、「シンドンジン」は値段も安く、通販サイトであっても20kgで5万7千ウォン(Gマーケットリンク)、安いところでは5万ウォンで販売されています。通販サイトでの「コシヒカリ」が10kgで最低でも4万ウォン、中心価格帯が5万ウォンであることを考えると、「コシヒカリ」の半値レベルと言えます。
炊飯後の工程
記事冒頭に示した写真のとおり、韓国の食堂の多くは、ステンレス製の器にご飯を入れ蓋をしてお客さんに提供します。
みなさまも予想していたと思いますが、注文の都度器に盛られているわけではありません。営業開始1時間ほど前に、炊きあがったご飯を器に入れてステンレスの蓋をするのです(しかも、器に入れる際にはぎゅうぎゅう詰めにしています)。そのままでは冷めてしまうので、巨大な保温器で一定温度に維持しておきます。
食堂の立場からすると、昼食時に大量のお客さんの注文をさばくためには、こうする以外の方法はないと言えるでしょう。
問題があるとすれば、1食7千ウォン程度で提供されるお店ならまだしも、1万5千ウォン程度で提供されるそれなりのお店であってもこの方式が多いという点です。
お客さんからの不満が少ない(≒料理の差)
こうした状況で提供されるご飯が、韓国人のお客さんはどう考えているのでしょうか?
それは料理による面が大きいです。
例えば、ビビンバ(混ぜ飯)の場合、食べる人自身でご飯と具材を十分に混ぜ合わせるには、ご飯粒同士がある程度分離している必要があります(余談ですが、ビビンバにするとき、筆者宅では大麦を20~30%程度混ぜて炊きます)。そうなると、アミロース含量が20%近くあった方がかえって好都合です。
また、クッパ(汁飯)にしても、たんぱく質含量が5%程度の米を炊飯した場合、汁の中ですぐにぶよぶよになってしまいます。そこで、たんぱく質含量が7%ある米を使ってこそ、食べ終わりの時もそのままの状態を維持しやすいです。
このように、韓国の食堂でよく出てくるメニューを思い浮かべると、「コシヒカリ」より「シンドンジン」が適しているとさえ言えるのです。
日本でこの種の料理を作るときは、炊飯の方法でカバーする面も大きいですが、韓国では品種でカバーしていると言えるでしょう。
まとめ
以上、本記事では、韓国で生産されるコメ品種について、特に旅行者がスーパーで見つけて入手しやすく、食味も日本米に近いものを探すための情報を整理しました。また、日韓双方の文化理解を促進するため、韓国の食堂で提供されるご飯の実態についても説明しました。
筆者が次に韓国でコメを購入してハンドキャリーで日本に持って帰るときは、「コシヒカリ」ではなく、「サムグァン」などの韓国品種にしようと考えています(さすがに「シンドンジン」は買わないでしょうが・・・)。
というのも、今後の韓国では、「種子主権」の考え方に基づき、日本に由来する品種を使用することは減っていくことが予想され、「コシヒカリ」や「ひとめぼれ」がいつまで市中に出回るか分からない状況だからです(「種子主権」については、筆者が書いた以下の記事をご参照ください)。

今後、韓国産米と分かっているコメを購入し、料理した感想なども書いてみたいと思います。お楽しみに。