高麗人参がそのまま市販されることは日本ではあまりありませんが、韓国では極めて一般的です。そして、韓国での高麗人参は、2400戸の農家が栽培し、年生産額も85億円に達する同国を代表する薬用作物です(参考:韓国統計庁「人参栽培および生産量(인삼재배 및 생산량)」)
しかし、2020年以降、国内消費低迷に起因する単価安に生産者や関係者は苦しんでいます。それを打開するために、いろいろな行事が韓国では行われているようです
ここでは、韓国農村振興庁が23年5月31日付で出した報道資料「高麗人参の消費活性化を模索、専門家が膝を突き合わせ(인삼 소비 활성화 모색 전문가 머리 맞대)」の翻訳と解説を通じ、高麗人参の最近の課題を読み解きます。
韓国高麗人参の最新状況について知りたい方、そして高麗人参の研究動向について知りたい方は必見です。
- 韓国における高麗人参の消費は、以前から凋落傾向であったが、コロナ感染拡大が本格化した2020年以降はその傾向がはっきりしてきた
- 消費の低迷は、価格低迷に直結するため、人参業界では様々な研究が行われている
- その一例が、農村振興庁が今回開催したシンポジウムであり、また動物実験の段階ではあるが重症化が抑制されるという知見も得られている
- 高麗人参は輸出自体は好調であるため、ユネスコ世界無形文化遺産登録などで、輸出はもちろん、国内の消費活性化にもつなげたい考えだ
ちなみに、農村振興庁は、韓国で農業に関する試験研究と技術普及を担当する官庁です。例えば、下リンクのような表彰を行うことで、研究の質を高めています。
農村振興庁報道発表の全訳
ー農村振興庁、生産者団体、産業体などが31日に学術討論会
ー市場傾向、製品開発の現況を振り返り、消費拡大方案を論議
ー高麗人参の加工品展示、試食行事も準備
農村振興庁(庁長・曺載昊)は、5月31日、高麗人参の消費活性化方案を模索するために、国立園芸特作科学院・人参特作部(忠清北道・陰城郡)で「高麗人参産業の発展と消費活性化」というタイトルで学術討論会(シンポジウム)を開いた。
この行事には、政府研究機関、生産者団体、産業体関係者などが出席した中、高麗人参産業の過去を振り返り、現在の姿を点検するとともに、未来を見通す時間を設けようと準備された。
高麗人参産業発展のための政策方向と市場動向、製品開発などをテーマにした専門家の発表と、総合討論に続き、国内産業体でつくられた高麗人参加工製品の提示、試食行事も行われた。演者(演題)は以下のとおり。
高麗人参産業発展ための政策方向と製品開発戦略
- 農林畜産食品部園芸産業課・李チャンヒョン事務官(高麗人参産業発展のための政策方向)
- 建陽大学校・李チョルソン教授(高麗人参、キャッシュカウか? クエスチョンマークか?)
- 車医科学大学校・李ブヨン教授(健康機能性食品制度の変化に伴う高麗人参製品の開発戦略)
消費拡大戦略と高麗人参の文化、歴史的優秀性
- 世明大学校・林ビョンオク教授(高麗人参生産、加工、流通の現状および消費拡大推進戦略)
- 韓国人参公社グローバル研究所・李ユンボム所長(高麗人参のグローバル市場トレンドおよび高付加価値人参製品開発)
- 国立園芸特作科学院・ユジン研究士(われわれの生活の中の「暮らしと人参」)
- 韓国外国語大学校・南スミ博士(高麗人参文化のユネスコ人類無形文化遺産の登録申請および意義)
わが国の人参消費量は、1人当たり年300グラム程度である(※)。新型コロナウィルスによる景気沈滞と健康機能性食品の多様化により、消費が停滞・減少する趨勢である。※人参統計資料集(2021)
反対に、輸出は、2022年には2億7千万ドルと歴代最高の実績を達成した。
一方、政府と社団法人韓国人参協会などは、2026年に高麗人参のユネスコ無形文化遺産登録を推進している。
高麗人参が世界文化遺産に登録されれば、人参の文化・歴史的優秀性をてこに、輸出拡大はもちろん、国内の消費も増大するものと期待される。
韓国人参協会の潘サンベ会長は、「農業現場では、価格下落、在庫増加、生産費増加、人手不足等により、困難さが増しているのが実情だ。人参産業の危機克服と国内の消費活性化、そして国産人参の価値を高めるために力を合わせよう」と言った。
農村振興庁・国立園芸特作科学院・人参特作部の金キョンミ部長は、「多様な分野の専門家と消費者の声を込めて、人参の輸出と消費活性化方案を作り上げるために、引き続き努力していきたい」と語った。
発表の解説と最新の高麗人参経営指標
発表解説
以上の記事を、どう読み解くべきか、自分なりに説明を加えます。
コロナ禍で高麗人参消費が低迷した理由
ここまで読んだみなさまの中には、
「高麗人参は体に良いとされている。なのに、コロナ禍で韓国内の消費が低迷したのは不思議だ」
と考えられた方も多いと思います。
ということで、韓医学において、高麗ニンジンの薬効上の位置づけを整理しておきます。
〇血圧を正常にする作用(コレステロールの分解や排出を促進し血管壁の動脈硬化を抑える) 〇全身の代謝機能の活性化(タンパク質、脂質、核酸の合成を促進し、細胞分裂を活発にする。特に肝臓や骨髄の代謝機能の活性化が顕著) 〇疲労回復の促進(全身の組織細胞の代謝が高まりよく眠れる、気分が落ち着くなどの相乗効果) 〇糖尿病の改善作用(人参サポニンが血糖値を下げる結果、血液中の糖分がスムーズに細胞に取り込まれ代謝される) 〇二日酔いに効果(人参サポニンが有害化学物質が原因である肝臓細胞の死滅に歯止めをかけ、異物を解毒する作用のある酵素を活性化させる) 〇副腎皮質ホルモンの分泌促進(花粉症、アトピー、リウマチといった、身体の免疫機能が過剰に反応して起きるアレルギー症状や疾患を改善する) 〇更年期障害の改善(サポニンが骨髄に作用し、健康な赤血球を作る手助けをしてくれるため)
以上、高麗人参は、確かに体にはよさそうです。
しかし、コロナウィルスの中核症状である、咳や呼吸器系の改善に直接役立つものはなさそうです。
そして、韓国では、キキョウ(도라지)の根が、咳や呼吸器の炎症を抑える働きがあるとされています(以下は、韓国農村振興庁「今月の農業技術(이달의 농업기술)2022.1.18」より引用)。
- キキョウの主要機能成分は、サポニン系成分です。現在、約69種が報告されています。この中のプラティコディンD(platycodin D)と、ディアピ-プラティコディンD(deapi-platycodin D)、プラティコサイドE(platycoside E)、ポリガラシンD2(polygalacin D2)、ポリガラシンD(polygalacin D)などが主要サポニンです。特に、プラティコディンDは、コレステロール代謝改善、抗ガン、抗炎症、抗肥満などの効果があることが明らかにされました。
- 薬用:キキョウの根は、風邪、咳、去痰、扁桃腺などの薬剤に利用され、製品としては龍角散(国内および日本、台湾等)があります。
- 食用としては、ナムル、焼き物、キキョウ茶などとして食べられます。
キキョウのような優れた薬材料が韓医学では以前から知られていたため、高麗人参は注目されなくなったのではないかと思われます。
最新の研究動向
ただ、ここにきて、高麗人参が「免疫力を増進させ、コロナ19感染抑制にも効果がある」という報道がなされています(下YouTubeリンクと訳文参照)。
人参市場が人々でごった返しています。コロナ19が長期化する中、人参に関心を示す人が増えてきました。 ソ・ヨンジャさん/大邱市南山洞「紅参や人参のようなものを食べれば、(コロナ19への)免疫力が増加するということだから、ついでに来たんですよ」 錦山人参薬草産業振興院が、忠南大・獣医科大学とともに研究した結果、人参にコロナ19ウィルス抑制効果があるという事実が明らかになりました。 研究チームは、ハツカネズミに人参を60日間投与したのちに、コロナ19ウィルスに感染させた後の生存率を観察しました。 その結果、人参を食べさせなかったネズミは生存率30%にとどまりましたが、人参を食べさせたネズミは50%が生存し、死亡率が20%低くなりました。 また、人参を与えたネズミは、コロナ19後遺症も少なくなりました。 人参を60日間投与したネズミを対象にコロナ19に感染6日目の肺組織を観察した結果、ウィルスに対抗する物質であるインターフェロン・ガンマの量が人参を与えなかったネズミより111%多く、ウィルス濃度は22%少ない結果が示されました。 様々な実験の結果、人参の投与期間が長いほど死亡率が低く、ウィルス抵抗力が高まるとともに、後遺症も少ないことが確認されました。 印ミギョン/錦山人参薬草産業振興院・研究開発2チーム長:「今回の研究を通じて、人参がコロナ19ウィルス感染に対する抵抗力を持っていることを直接確認できるチャンスになりました」 今回の研究がまだ人体試験を経てないので、コロナ19への抑制効果を断定はできません。 しかし、迅速な確認のためにも政府の積極的な研究支援が必要と思われます。 KBSニュース ソ・ヨンジュンでした。
私見では、人参の価格低迷に悩む関係者が必死に研究をした結果と言えそうです。
高麗人参の経営指標推移(2014~21)
高麗人参は、農家経営においても重要な作物と位置づけられており、毎年主要な経営指標が測定されています。
高麗人参の経営指標を整理すると、産地の状況がどれだけ切実かが理解できます(10ウォン=1円で試算)。
単収と単価の推移
- 単収は2014~21年の最高年と最低年で15%程度の差異だが、単価の最高年と最低年の差異は30%に及ぶ。
- 2018年には2845円/kgであったが、その後は下落の一途をたどり、2021年にはこの8年で最低の2114円/kgを記録した。
所得と経費の推移
- 2018年まではおおむね100万円/10aの所得が得られていた。
- しかし、19年以降は下落傾向であり、2021年にはこの8年では最低の75万円/10aしか得られなかった。
まとめ
- 韓国における高麗人参の消費は、以前から凋落傾向であったが、コロナ感染拡大が本格化した2020年以降はその傾向がはっきりしてきた
- 消費の低迷は、価格低迷に直結するため、人参業界では様々な研究が行われている
- その一例が、農村振興庁が今回開催したシンポジウムであり、また動物実験の段階ではあるが重症化が抑制されるという知見も得られている
- 高麗人参は輸出自体は好調であるため、ユネスコ世界無形文化遺産登録などで、輸出はもちろん、国内の消費活性化にもつなげたい考えだ
参考資料
- 韓国農村振興庁報道資料「高麗人参の消費活性化を模索、専門家が膝を突き合わせ(인삼 소비 활성화 모색 전문가 머리 맞대)」:2023.6.4閲覧
- 百済錦山人参農協「高麗人参コラム」:2023.6.4閲覧
- 韓国農村振興庁:「今月の農業技術(이달의 농업기술)2022.1.18付」:2023.6.4閲覧
- 韓国農村振興庁:「2014年以降所得情報」(농촌진흥청「2014년이후소득정보」):当該ページを操作し、2014年~2021年(8年間)の「全国(전국)」の「人参[4年根](인삼[4년근])」に関する情報を抽出