【韓国農業事情の今が分かる】(韓国農漁民新聞社説23.06.02)親環境農業、転換点が必要だ【新聞記事紹介・解説】

韓国の市販袋入り堆肥の写真です 新聞記事신문기사
肥料管理法上の登録を受けた韓国の堆肥

韓国農業にも、環境に負荷をかけない持続的な農業(以下、環境保全型農業)という概念があり、「親環境農業(친환경농업)」と呼ばれています。親環境農業の中で、特に、化学肥料や化学農薬を全く使わずに3年間経過したほ場で生産された農産物を有機農産物と呼んでいます。

ここでは、23年6月2日付韓国農漁民新聞に掲載された社説「親環境農業、転換点が必要だ(친환경농업, 전환점이 필요하다)」の翻訳と解説を通じ、韓国の環境保全型農業や有機農産物の課題を読み解きます

また、有機農産物については、ほ場の認証面積や生産物の出荷量など、日本との比較データもあわせて掲載します。

最近の韓国の環境保全型農業や有機農産物の状況について知りたい方、そして日本との違いについて知りたい方は必見の内容です。

  1. 韓国農漁民新聞社説では、親環境農産物に関する市民の信頼は非常に高いが、生産現場では面積減少などが起こっていることを指摘している
  2. また同社説では、親環境農産物の認証基準が厳しすぎることを指摘し、もっと現場の声を反映した(≒要件の緩和)を提言している
  3. 認証制度や栽培面積から判断する限り、韓国の「親環境」農産物は、日本の特別栽培農産物よりは有機農産物の方に近い基準をクリアする必要がある
  4. それでも、有機農産物の認証面積や生産量で見る限り、日本より韓国の農家の方が「親環境」ないし「有機」農産物の生産に熱心であるといえる
  5. しかし、韓国の「親環境」と「有機」農産物の生産量割合では構成比率にかなりの乖離がみられ、例えば特用作物は「有機」がかなり少ない
  6. 以上から、社説の真の主張は「いろいろな品目が幅広く取り組め、部門間での不均衡がないように、『親環境』なり『有機』認証政策を見直せ」ということになろう

記事の全訳

親環境農産物の消費者の信頼は高く、しかも年々高まっている

親環境農産物に対する消費者の信頼度は高く、毎年上昇する勢いを見せている。

韓国農水産食品流通公社(aT)の親環境農産物認識調査によると、2022年基準で信頼するという比率が68.6%を記録した。さらに2020年には60.6%であったので、比較的短期間で8%高くなったのだ。信頼しない比率は、5%程度に過ぎなかった。

大部分の消費者が親環境農産物を信頼し、何よりも輸入農産物よりも国産農産物に対して圧倒的に高い点数を付けている。親環境農産物が「よい農産物」であるという等式が成立するという意味で解釈しても差し支えないだろう。

認証面積が減少する厳しい生産現場

消費者から高い信頼を受けている親環境農産物であるが、生産現場はむしろ厳しいという逆説的な状況が繰り広げられている。

最近の親環境ほ場の認証面積減少が現実を代弁している。親環境農産物認証に対する統計資料によれば、認証ほ場の面積は、2020年の8万1827haから2022年は7万127haに、生産者は5万9249名から5万722名に減っているのだ。

現場条件とかけ離れている認証制度

何がこのような問題点を量産するか、省みなければならない。

現場の親環境農業を実践する生産者と関係専門家たちは、政府の制度上の問題点を指摘する。久しい以前から問題点を提起されてきた認証制度(農薬0.001ppm以上検出時は認証取消)は、依然として親環境農業の現場条件とかけ離れている

環境保全機能を評価した現場反映の政策を

農薬と無機質肥料など化学農法への管理だけに偏重しているから、環境保全機能に対する評価や認識がないという状況に他ならない。

したがって、親環境農業と親環境農産物の価値領域を拡張しなければならないという提言に耳を傾けねばならない。消費者の信頼を受けている親環境農産物の新しい転換点は、現場を反映した政策が肝心である。

※小見出しおよび改行の付加は、管理人が適宜実施した。

記事の解説

日本との制度上の違い

ここで、韓国の親環境農産物が、日本の類似制度「特別栽培農産物」とどのように違うかを整理します。

一口に言って、韓国の有機農産物は、日本とほぼ同制度です。

半面、韓国の親環境農産物は、日本の特別栽培農産物より厳しい認証基準をクリアする必要があります。

韓国の親環境農産物

以下のいずれかだけが、「親環境農産物」の認証を得ることができます。

  • 無農薬農産物:化学合成農薬は全く使用せず、化学肥料は推奨使用量の1/3以下しか使用していない農産物
  • 有機農産物:化学合成農薬と化学肥料を全く使用せず、転換期間(永年性作物は収穫前3年間、それ以外は播種または定植2年間)が終了したほ場で生産した農産物

日本の特別栽培農産物

日本では、特別栽培農産物と有機農産物がはっきりと分けて定義づけられています。また、特別栽培農産物は、きちんとした統計がとられていないようです。

  • 特別栽培農産物:農産物の生産地域(都道府県等)ごとに定められた基準値に対して、節減対象農薬の使用回数、化学肥料に含まれる窒素成分がともに50%以下で栽培された農産物
  • 有機農産物:国が定めた各種基準(例:化学農薬、化学肥料不使用)を順守し、多年生の植物から収穫される農産物はその最初の収穫前3年以上、それ以外の農産物は播種または定植前2年以上経過したほ場から収穫した農産物

日韓の「親環境」「有機」農産物等の認証状況比較

日韓の認証ほ場面積の推移

  • 日韓の「有機農産物」認証ほ場面積を比べると、2014年は日本は韓国の半分の1万ha程度あったが、2020年には差が4倍に拡大した。
  • 韓国は、「親環境農産物」認証ほ場面積は、2020→2022年の2年で1万ha減少した。しかし、有機農産物は逆に2017→2020年で2万ha増加した。
  • 韓国では、2022年時点で、「親環境農産物」認証ほ場面積が7万ha、うち「有機農産物」認証ほ場面積が4万haであることから、「親環境農産物」の大半は有機農産物である。
  • 下リンクにあるとおり、韓国の農地面積は1529千ha(2022年)であるので、全ほ場面積の5%が「親環境農産物認証」ほ場、3%が「有機農産物認証」ほ場で生産されたことになる。
  • 日本の農地面積は4325千ha(2022年)であるので、全ほ場面積の0.3%程度が「有機農産物認証」ほ場で生産されたことになる。
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日韓の認証生産量の推移

  • 韓国の有機農産物出荷量は2017年以降は年50万トン、日本では年6~7万トンで推移していることから、韓国の有機農産物の出荷量は日本の7倍程度と多い。
  • 両国の人口を勘案すると、国民一人当たりに国産の有機農産物が行きわたる量は、韓国が日本の20倍程度(韓国:1人当たり約10kg/年、日本韓国:1人当たり約0.5kg/年)となる。

日韓の認証農産物種類別の出荷量

韓国の「親環境」、「有機」農産物
  • 韓国の「親環境」農産物の場合、穀類、野菜、特用作物を中心にしつつも、比較的にバランスが取れた構成割合となっている。
  • しかし、「有機」農産物となると、特用作物の割合が減少し、穀類の割合が増加するなど、部門間の増減が目立つ状況である。
  • 中でも、「親環境」→「有機」の段階が上がると、特用作物の減少割合が著しい(下リンク「韓国民俗文化大百科事典」によると、特用作物は、①繊維作物(綿花、麻など)、②油料作物(アブラナ、ゴマなど)、③薬料作物(高麗人参、シャクヤクなど)、④嗜好作物(茶、たばこなど)、⑤糖料作物(テンサイ、サトウキビなど)、⑥染料作物、⑦樹液作物に大別されるという。ここでは、③薬料作物は別カテゴリーで収録されているので、それ以外の作物ということになる。
日本の「有機」農産物
  • 特別栽培農産物の生産量は統計がなく、品目別統計もない状況だが、有機栽培農産物だけで見る限り、日本は野菜にかなり偏重している。

管理人の意見

親環境・有機農業に限っては、韓国の方が精力的に取り組んでいるのは疑いがありません。

その原因は、ひとえに「韓国では親環境・有機農産物のマーケットが厚いが、日本は薄い」ことに他なりません。

両国のマーケットの差異は、ひいては「両国民がどれだけ食にお金をかけられるか」という認識の差からきているといえるでしょう。

また、韓国の場合は「親環境」と「有機」農産物の差があまりに近いのに対し、日本は「特別栽培」と「有機農産物」の差があまりにも遠すぎるのも、両国で別の問題を生み出しているといえます。

農業においても、カーボンニュートラル(化石燃料由来の炭素を排出しないこと)実現が急務であり、韓国でも精力的に研究されています(↓下リンク参照)。そういった意味でも、親環境・有機農業の役割は今後も拡大し続けるでしょう。

【韓国の農業技術が分かる】2022年 韓国農村振興庁 農業技術大賞 5選【その1:韓牛の飼料費・炭素低減型飼育技術】
2022年に選定された5点の農業科学技術表彰大賞の中から、「韓牛の飼料費および炭素低減型飼育技術の開発・普及」について、その概要を翻訳してみました。

まとめ

  1. 韓国農漁民新聞社説では、親環境農産物に関する市民の信頼は非常に高いが、生産現場では面積減少などが起こっていることを指摘している
  2. また同社説では、親環境農産物の認証基準が厳しすぎることを指摘し、もっと現場の声を反映した(≒要件の緩和)を提言している
  3. 認証制度や栽培面積から判断する限り、韓国の「親環境」農産物は、日本の特別栽培農産物よりは有機農産物の方に近い基準をクリアする必要がある
  4. それでも、有機農産物の認証面積や生産量で見る限り、日本より韓国の農家の方が「親環境」ないし「有機」農産物の生産に熱心であるといえる
  5. しかし、韓国の「親環境」と「有機」農産物の生産量割合では構成比率にかなりの乖離がみられ、例えば特用作物は「有機」がかなり少ない
  6. 以上から、社説の真の主張は「いろいろな品目が幅広く取り組め、部門間での不均衡がないように、『親環境』なり『有機』認証政策を見直せ」ということになろう

参考資料

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